藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

外傷性筋損傷から考察する治療期間

今回は外傷性筋損傷を例えに考えていきたいと思います。
ムチ打ちを例に挙げると、一般的なムチ打ちの受傷機序としては、
追突事故を起こす(起こされる)事により急激に頸の各筋群にダメージを受けるものですね。
交通事故に関しては、事故が起きると予測出来る状況まで自身の補正が可能であった場合は
身構える事ができ、ある程度のダメージを回避する事が出来るでしょう。
しかしながら、不意に追突されたりした場合は、首の筋緊張を事前に強めてダメージを回避出来ずに、
受傷度合いとしては大きくなります。四方八方、どこからの追突のケースでも構いませんが、
身構えていなかった場合、追突の瞬間に一度大きく頸は振られ、
急激に反対方向へ力が働く事になります。
 
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このように、ガックンと頸は大きく振られます。
この際に発生するのは、追突の衝撃の速度等々によって度合いは異なりますが、
筋線維の断裂受傷箇所の血腫形成筋線維の粗雑化筋の柔軟性の回復不能より
発生する疼痛等々の症状が起きるのは、経験した方ならお分かり頂けるかと思います。
では、このような筋線維の粗雑化とはなんじゃらほいと
 
           左は正常な筋肉です。ついでに右はミオパチーを呈している状態↓
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        せっかくなので、ニューロパチーを呈している筋肉はどうなっているでしょう。↓  
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では、今回の本題である筋損傷を受けた筋肉はどうなっているでしょう↓
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このように、筋線維が粗雑な状態になっています。
復習を兼ねて以前ブログでも取り上げたMPSへ以降する発生原因を
一般的な筋肉痛様疼痛と並べて改めて復習してみましょう。

筋肉痛⇒
運動後数時間から1~2日後に痛みが生じて、1週間程度で自然に消滅する筋肉痛である。
不慣れで強い伸張性収縮運動
eccentric exercise contraction: ECCに伴って、しばしばDOMSを生じる。 ECCとは、筋肉が引き伸ばされながら力を発揮する収縮。筋長が最大限に伸びた時に       伸張負荷が加わると、ECCが生じやすく、筋力低下、腫脹も顕著になる。
筋肉が短縮する動作のみの等尺性や短縮性収縮運動 concentric exercise contraction: CECでは
ほとんど生じない。下り坂走 downhill runningDOMSを誘発することは知られている。
 
運動により筋線維にミクロの損傷ができ、それに伴い一連の炎症反応が起こることで痛みを感じる。
DOMSの本態は、筋と結合組織の損傷後の炎症反応に伴う現象。
痛覚受容器は、筋線維そのものにはなく、筋膜に存在する。
 
筋線維の微細損傷の修復時にみられる炎症過程で発痛物質が発生しこれが筋膜を刺激して
痛みが起こる。伸張性収縮運動を行い、筋が損傷を受けると、筋線維の傷害を反映している
クレアチンキナーゼ(CK)の血中濃度で増加する。CKは運動後34日目にピークに達する。
CKのピーク時点で、筋線維は壊死し、白血球の浸潤や腫脹などの炎症像が見られる。


筋膜痛⇒
筋肉が収縮する際、運動神経線維の末端からアセチルコリンが放出され、
筋線維から終板電位が発生する。 これが引き金となり、筋線維から活動電位が発生する。 
 
活動電位が筋線維の横行小管に伝わると、筋小胞体の終末槽からカルシウムイオンが
細胞質(筋奨)内に放出され、太いミオシンフィラメントの間に細いアクチンフイラメントが
滑り込んで収縮する。
 
筋線維への過大な負荷により筋小胞体が傷害され、
活動電位が出なくても筋小胞体からカルシウムイオンが筋漿に出ていく。
この結果、太いフィラメントの間に細いフィラメントが滑り込む。このようにして筋線維が短縮する。
このとき活動電位が出ないので、収縮と呼ばず拘縮と称している。
 
拘縮が発生すると、血流が障害され、これに拘縮によるエネルギー消費の増大が加わって
代謝産物が蓄積し、ブラジキニンが産出されて痛みを生じる。このときプロスタグランジンも産出され、
ブラジキニンの発痛作用を増加する。筋肉が痛みの発生源となると、
反射性筋収縮や血管収縮が加わって痛みを強め、痛みの悪循環ができ上がる。
また太いフィラメントの間に滑り込んだ細いフィラメントが元に戻るのにATPのエネルギーを必要とする。
血流が悪いとATPの産生が減ってなかなか拘縮が解けない。 
 
筋肉を意識して収縮させることを筋収縮と言う。
意識して筋肉をコントロールできる範囲のことで、意思に反した収縮を筋拘縮、
さらに進んで硬く固まった状態を筋硬結、慢性化して痛みの原因となっている。
 
パターン1
過度の収縮や伸張、外傷などで筋組織に微小な損傷がおこる。
それにより損傷部位周辺にCaイオンが放出され、筋は持続的に収縮する。  
その結果、周辺の毛細血管が収縮した筋に圧迫され続けることになり、組織の酸素不足、
エネルギー不足、代謝老廃物の蓄積へとつながり、発痛物質が産生される。
 
パターン2
繰り返し動作や、同じ姿勢の維持などによる持続的収縮により、ATPが不足する。
その結果、筋の収縮と弛緩を司るCaチャネルが働かなくなり、
筋繊維の一部が持続的に収縮する。
このように筋繊維の一部が持続的に収縮し硬くなった状態を「筋拘縮」さらには「筋硬結」という。
こうなると、周辺の毛細血管の流れが悪くなり、血液が足りない虚血という状態になる。  
それにより細胞から興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸が漏出し、
それが筋膜などにある知覚の受容器を興奮させ痛みを感じさせる。
いずれにしろ、局所循環の傷害により、感作(発痛)物質が産生されて、圧痛が生じる。

このような粗雑な筋線維状態に陥った筋肉は、伸収縮能力の減退、
且つ血流が行き渡らずに酸欠状態を呈し、患者にとっては痛み等々の
症状を自覚させてしまう事になります。基本的に鍼治療というものは、上図のように陥った
筋肉群に対して針を刺入し、意図的にアポトーシスを発生させ、
未加療の状態とは異なる急激な回復を見込む治療法かと考えています。
 
端的に言えば未加療による状態では筋弛緩が出来ない状態の箇所に対して、
意図的に針を刺し入れ、傷を作ります。傷が出来た箇所には動脈血が流入します。
動脈血は様々な栄養素を持っていますね。話が長くなるので端折って端折って
結果的には筋弛緩を得る事により脈管の疎通が良くなり、様々な症状の軽減及び消失を目的とします。
 
少し話はそれますが、鍼治療の優位性というのが此れです。
 
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大腰筋に対してアプローチしようとした場合、
指圧や他の治療機器の場合、深層筋のような箇所への深達度は表在より低減していきます。
仮に大腰筋へ指圧でアプローチしようとした場合、表在筋を破壊する覚悟で力を加えなければ
なりません。そうなると、結果的に大腰筋は弛緩作用を得る状態が出来たとしても、
表在筋の筋断裂が生じてしまう可能性が非常に高くなります。これでは元も子もないですね。
鍼の場合はそのような事はなく、深層筋まで100%の力でアプローチ出来ます。
これが圧倒的に他の治療とは異なる鍼独自の優位性でしょう。
 
では、改めて筋損傷時の筋肉を見てみましょう。
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筋損傷箇所に鍼を刺し、筋血流量増大を促し弛緩作用を持たせると同時に、
筋線維の正常化を図る事になるのですが、早期段階の場合は、筋線維の粗雑化が
起きていた場合でも新鮮期であればあるほど、治療効果が早期に自覚出来るのは、
治療時の段階でもある程度血流量の疎通が可能となっているからでしょう。
 
これが数ヶ月~数年と抱えた疼痛の場合は、血流量が長らく低下し、低酸素代謝が起きている
筋群であれば回復過程にも治療回数と治療期間、治療結果が出るまでのタイムラグが生じるのも
納得出来るのではないかと思います。回復まで時間が掛かるのはこの為です。
 
その為に早い段階で治療をしなければ、
経済的にも時間的にも最終的に患者が損をする事になります。
その他、慢性化した疼痛を抱える筋肉は、上図のように粗雑化が発生すると共に、
伸収縮能力が減退し、短縮傾向にあります。筋肉自体には痛覚を受容する機能は
存在しませんが、筋膜には痛覚を受容する機能が備わっています。
 
治療回数を重ねる毎に、筋肉自体に弛緩作用が発生した場合、筋の伸収縮能力の増加により
各箇所での筋膜刺激を生じる事になります。これが以前にも書いた内容ともなりますが、
治療回数の積み重ねにより、主症状の軽減は起こるものの、
様々な箇所が筋肉痛様疼痛に苛まれるのは、このような理由があるのではないかと思います。
 
では、このような状況はムチ打ちのような状況だけで発生するかと言ったらそうではありませんね。
あくまで、骨格筋に強い外力が持続的及び短時間で断続的に加えられた場合も起こります。
強い痛みが伴う指圧等々が主に挙げられます。
揉まれている最中と終了直後は爽快感を得られる事になるでしょう。
しかし、この感覚は筋肉が弛緩したからではありません。
脳内麻薬であるエンドルフィンが噴出しているからなのです。
強い指圧を繰り返されてきた身体は鍼を刺すと直ぐに分かります。
明らかにおかしな皮膚と筋肉をしていますね。
 
ムチ打ちを起こした患者も同様な筋肉に近いかもしれません。
何にせよ、以前も書いた通り、受傷機序の明確な外傷系運動器疾患に関しての治療というのは
非常に簡単です。しかし、何事も発症から時間の経過した症状に関しては治療に時間が
掛かるのもお分かり頂けたのではないでしょうか。
 
逆を言えば、このような筋線維状態の患者を一回の治療で治すと豪語する人間は怪しいと
思ったほうが良いでしょう。痛みを止める、痛みを麻痺させるなら一回でも十分でしょう。
しかし、永続的な症状軽減~消失を目的とした場合は複数回の治療回数と
治療期間というのが重要になってきますね。

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イメージ 2 ~青森から鍼灸治療の意識改革を