藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

続・続・続・鍵コメさんからのご質問に対して

>>緊張筋、短縮筋などを弛緩させ状態を整えると、スパズムが発生しにくくなる様な気がします。
>>スパズムが消えれば、筋が正常な状態になったということでしょうか?

ご質問頂き有難う御座います。あくまで主観的要素が多分に含まれた持論です。
そして、今回のご質問内容にお答えする為には、幾つかの仮説立てが必要かと思います。
 
1)スパズムの定義
2)緊張筋の定義(持続的短縮状態を緊張筋と呼ぶのかor持続的伸張状態を緊張筋と呼ぶのかor両方か)
3)短縮筋を弛緩させるアプローチ方法や順序、手法・手段
  (短縮筋を弛緩させる為に短縮筋に手を付けるのかor拮抗側の伸張筋に手を付けるのかetc…)
4)正常な筋の定義(疼痛や痺れを自覚していない状態なのかor筋硬度計等を用いて数値化したものか)
 
今回は一度、極々一般論的なご質問内容であるという事で解釈させて頂き、話を進めていきます。
内容や定義及び仮説付けに関して意義等々があれば、叉ご連絡下さい。
 
※私は血流を標榜したアプローチを行っているので、筋肉に関してはそれ程詳しくない為、
                                 内容的に間違えているかもしれません…。あしからず


先ずは筋スパズムの一般的解釈を挙げます。
 
関節可動域制限の原因として、
①筋攣縮(spasm)なのか、②筋短縮(shortening)なのかを分ける必要がある。

もちろん、その姿勢自体が安定していなければ、
姿勢制御機構の影響も強くでる(健常人でも影響は+)が、
ここでは簡略的に解釈するために上記2つにわける。

①筋攣縮(筋スパズム)は、その筋組織を押した時の痛み(圧痛)がみられ、
筋肉を緩めた状態(筋の起始と停止を近づけた)であっても緊張が高いままである。

②筋短縮(ショートニング)では、圧痛はなく、筋の起始と停止を近づけた時には、
筋の緊張は低く、ダルンダルン状態になる。

両者とも限界まで伸張すると痛みを伴う(伸張痛+)。

なので、これでは鑑別できない。しかし、治療結果としての評価の指標には利用できる。


痛みによる逃避反射
    ↓
筋緊張亢進(急性スパズムと慢性スパズム)
    ↓循環障害を招き
   筋浮腫 (重力が影響するむくみ)
    ↓(これが長期化すると)
筋硬結(筋ゲル・芯)(重力が影響しない)


①急性スパズムは刺激時の筋全体に及ぶ一過性の防御収縮
②慢性スパズムは鍼やマッサージで容易に消失する長期にわたる筋緊張状態
③筋スパズム(と筋浮腫)は疼痛抑制姿勢、つまり伸張位をとる。
 
この事より要約すると、
「筋スパズムは、有痛性の持続的収縮で、 通常筋が極度に短縮することで誘発される」


イメージ 1
 


上図の一過性の過大な負担というのは、
外傷性・非外傷性問わず起こりうる現象です。
外力にて損傷したものか、自身の力(持続的圧迫姿勢、持続的負荷姿勢)にて損傷したものかです。
もう少し分かり易くすると下図が参考になるでしょうか。


イメージ 2


実は先に答えから言うと、
私は「筋スパズム」というものが分かりません。
 
これはどこかの治療院等々で筋スパズムという単語を聞き、
当院に巡って来られた患者さんからも
 
「肩や腰にスパズムがありますか?
「スパズムってどのような状態ですか?
「スパズムって何ですか?」
 
と聞かれる事が多いのですが、「分かりません」と答えているのが現状です。
 
「筋スパズムが理解出来ない=存在の有無すら納得も把握もしていない」状態です。
例えば、病的な筋痙攣等々であれば目視も可能かもしれませんが…。
 
上記の要約をもう一度貼り付けて頑張って考察してみます。


①急性スパズムは刺激時の筋全体に及ぶ一過性の防御収縮
②慢性スパズムは鍼やマッサージで容易に消失する長期にわたる筋緊張状態
③筋スパズム(と筋浮腫)は疼痛抑制姿勢、つまり伸張位をとる。


①はどのようなケースで発生するのでしょうか。
外力からの強圧等により、一時的に身が強張る筋緊張状態、防御反応、
疼痛抑制姿勢が発生した瞬時の状態を指すのでしょうか。
筋全体というのは骨格筋全てが防御収縮を示している状態なのか一部なのか。
 
②長期短期の定義も明確になっておりませんが、基本的に長期にわたる筋緊張状態は容易に消失しません。
それは鍵コメさんも身を以って体験なされているでしょうし、術者サイドからの視点でも納得出来ません。
筋緊張状態にリフレッシュ作用を起こしたり、リラックス状態を作り、一時的な作用を生む事は可能かも
しれませんが…。きっとコレを書いた人は、現場に立ってない人間か、ゴッドハンドなのでしょう(笑)
 
③疼痛抑制姿勢を取る状況とは、防御反応を患者は示す事になります。内臓器疾患は除外し、
あくまで運動器疾患で見た場合、痛み痺れに悩む患者は逆エビの如く反り返る事は原則的に無いですね。
身体は丸める傾向になります。
>>つまり伸張位をとる。
確かに屈曲側の拮抗側は伸張位になります。筋スパズムとは疼痛抑制姿勢を取った
防御反応側となる短縮筋ではなく、止むを得ず拮抗した伸張側の筋群を指すのでしょうか。


幾つかの疑問符が付きますが、話が進まなくなるので「筋スパズム」というものを
 
外傷・非外傷問わず、微細な筋損傷を伴い、
筋緊張にて持続的短縮状態伴う筋群に対して伸張位状況を作り、
伸張位の箇所に対して、押圧等による疼痛状況を増強させた状態
 
このように仮説立ててみます。
改めてご質問内容を見させて下さい。
 
>>緊張筋、短縮筋などを弛緩させ状態を整えると、スパズムが発生しにくくなる様な気がします。
 
A)内容から緊張筋は伸張筋、短縮筋は短縮筋と捉えさせて頂きます。
伸張筋及び、短縮筋に対して弛緩作用を生む事で、筋血流量は上がります。
この事により、持続的に伸張及び短縮している筋群が快方へ向かうと共に、
各当該筋が対象とする当該関節の距離の適正化も行われ、
所謂筋スパズムの発生確率は軽減するかと思います。
 
個々の治療家で理論は違えど、
ここまでは通常のマッサージや指圧、鍼灸治療にても結果的に作用として発生し得る状況かと思います。
 
一番大切なのは、
>>状態を整えると
ここに尽きると思います。
 
症状発症時期や度合い、患者個々の状況により大きく変動してくるポイントかと思いますが、
前提として発生する作用であるA)の状態が、治療後も持続的に患者に対して
起き続けていなければ、患者にとっては「その場限りの効果」しか得られないと思うのです。
 
この観点というか、視点が抜け落ちていれば、
揉まれている時だけ、鍼を打たれている時だけにしか得られない
一過性の症状改善にしか繋がりませんし、
勿論、硬い所ばかり揉んでいても無駄な時間が過ぎていくだけです。
 
ここのポイントに関しては、外傷性であれば比較的簡単ですが、
非外傷性の所謂鍼灸院に来院されるような大半の患者群に関しては、
過去にも書いている「原発≠症状発症箇所」である事を念頭に、
患者個々の動きより原発を探らなければならないでしょう。


>>スパズムが消えれば、筋が正常な状態になったということでしょうか?
私の勘違いでなければ、昔々同じ質問をどこかの医師にしましたか?なんかデジャブが(苦笑)
 
確か当時の答えというのは、
「痛みが消えてもスパズムは残る」「スパズムは残っても痛みは無い」
のような答えを医師は提示していたと記憶しています。
 
まぁこれはTPBを行う世界では往々にしてある解釈なのかもしれません。
但し、ご存知の通りこれは薬で麻痺させているだけであり、
患者にとっての永続的な症状快方及び治癒過程に乗せて走らせる治療手段ではありません。
 
スパズムが局麻で取れるのであれば、現行のTPB業界はもっと繁栄していると思います。
しかし、現状はそうでもないようです。
 
痛い箇所に刺しても良くならないから、皆で頭を捻り研究会や学会が存在し、
アレコレと検討しつつも結局やっている事は何時まで経っても変わらないという
オチを随分見てきたのでこれ以上の話もしたくはないですが…。
TPBの症例集も、腐敗した鍼灸業界のサンタ論文を読んでいるようで参考になりませんしね。
 
仮説立てしたスパズムの内容が、鍵コメさんの意見と合致し、
スパズムを起こしている箇所を押圧しても痛覚過敏状態の消失が認められた場合であれば、
それは正常に戻ったのではないかと思います。但し「正常」とは何かとの問題も付き纏います。
 
そして一番の問題は、私が仮にスパズムなるものを触知したとしても放置しているという現況です。
ここが筋に着目するか血流に着目するかの違いとなり、治療理論が大きく異なってくるポイントの為に
話が平行線になってしまう部分なのでしょう。
a)スパズムを何とかしようという思考ではなく、
b)何故スパズムが発生しているのかを見ますので、
アプローチする箇所が異なります。
 
現実的な問題として患者は私の思想と異なり「即時的な除痛」を望んでいる方が大半の為に
a)の治療手段を行う人間のほうが受けが良いでしょう。即時的な効果も望めますし、
日本人が好む特有の「満足感」も得られますでしょうしね。オピオイド出しまくりで帰ってもらえるはずです。
私はb)の手段を取りますので、発痛箇所にも手を付けずに治療が進行する為、
患者意識とは差異が明らかにあるし、日常生活にも制限を掛けるケースもある為に、
理解が無ければ後味が悪いんじゃないですか(笑)
 
痛み痺れ麻痺、感覚鈍麻、筋脱力等々の無い状態を持って正常と捉えるのか。
もしくは、他部位の非損傷箇所の筋肉の硬度と比較して、硬度が他部位と同程度になれば
正常と捉えるのか。 ここに関しては、患者サイドの意識が大きく働く部分かもしれません。
 
鍼灸治療は数値化できぬ非常に抽象的な世界で患者と戦い続けなければならない部分があります。
例えば肝数値が…、血圧が…、と薬を飲んで下がったから「ハイお終い」と言い切れなく、
私達は患者の口や身体表現から現行の症状を紐解いて治療を行う為に、
来院日の情緒によって問診時の受け答えも相応に変化してくるでしょう。
 
良い気分で治療院に足を運ぶか。
ケンカをしてから治療院に足を運ぶか。
スピード違反で足を取られてから治療院にetc…。
 
他にも、自他共にROMの改善や発痛箇所の縮小等々が見られている場合であっても
患者本人が満足している状況でなければ「良くなった」という希望ラインには到達していないのです。
我々が幾ら「良くなってますよ」と言っても、患者が「良くなっていない」と思ったら良くなっていないのですね。
 
色々な事情もあるのでしょう。
鍼治療をしている事を身内に隠している人。掛かり付けの医師に隠している人。
思い切り整形で喧嘩してから来る人。家族に無理やり連れられてくる人。
身分を隠して腰が痛いと嘘を付いて来る業界関係者。
  
なんて様々な要素が介入した上で当院に辿り着いている訳です。
そこには、鍼を刺入する事から得られる抵抗感のみでは
一概に言えない部分もあるのかなと最近は考えていますよ。 
 
でも、そんな鍼が心底好きやねんと言う事で今回は終わりに致します。
 
 青森から鍼灸治療の意識改革を~