藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

臨床的疼痛学問が発展し難い理由3


如何なる症状も一度は中枢神経系を介して末梢領域に対しての症状自覚の為、各々の受容器で誇張されたり修飾されたりするのも自然な事かと思われ、特に罹患層としては厚い純粋な整形領域的症状に対しても誤解が生じかねない、一概に言えない内容かもしれませんが、
仮に筋肉疲労と言われる症状があったとし、それが筋線維内で生じているアクチンとミオシンの滑り込みが滑らかに働かず低酸素状態に陥り、随伴的に血管絞扼が生じ、低PHを生じたとしても、極めて脆弱な身体状態で無い限りは、酸素分圧保持の為、短期に血管拡張は始まり、極度に血腫形成が生じた状態や、筋線維が著しく傷んだ状態でない限りは2~3日、又は1週間以内には自然軽快するものと思います。
傷んだ状態のまま反復的(連日)に受傷起因を取り込み続ける事で、一層の脆弱性はどの部位でも生じるとは思いますが、それはあくまで個人の問題や事情にも由来してくる為、あくまで今回は基礎的な部分での話をしたいと思います。
このように、反射的な働きを利用した療法の代表的なものが温冷療法や乾布摩擦、寒い中での滝行等です。わざと、そのようなネガティブな環境下に身を置き、そのリバウンド作用を見込んだ療法です。リバウンド療法はこれに限らず数多くあるものですが、人間は寒い環境に暴露された場合、交感神経が働き血管を収縮させ、熱を体内に留めます。反射的に震えを起こし、熱産生をし、熱を留めなければ死んでしまうからです。しかし、このような血管収縮も長期に渡り続かない為、何れは反跳し、結果的に過度な、又は痛覚閾値を超える、又は耐痛閾値を超える拡張が始まります。
「痛み」でクローズアップしても分かり難いかもしれませんが、これが同タイミングで分泌される痒み成分ともなるヒスタミンでイメージすると分かり易く、物質が過度に分泌され、閾値を超えれば暴露部位の痒みを抑えようと皮膚を掻きたくなる行為に及ぶのは、このような過度な反跳作用による拡張が生じているものからと推測されます。

脊椎変性疾患を1つ取り上げてみると、例えば腰椎に後方滑りがあり、更に脊柱管の狭窄が生じていれば、腰椎回旋時に下肢に一瞬の電撃痛が生じ易い場合もあるでしょう。多くは急速回旋による椎間孔部のインピンジに伴うもので、例えば野球肩を取り上げても、コッキング期やフォロースルー期に派生する肩峰下での疼痛は、棘上筋(厳密に言えば腱板部)と肩峰下での急速なインピンジによる疼痛であったりと、
一見、前者は神経、後者は腱板かもしれませんが、受容器は神経を介する事が前提となる為(筋線維そのものには痛覚受容器が存在しない)、どちらも神経インピンジによるものと推測されると同時に、骨性及び関節性の極度な構造的異常が生じていない場合(例えばROM不全とか)、それは長期罹患に伴う中枢神経系での感作である事も治療反応上として印象深く感じるものです。
後述する事になりますが、このような「痛み」であれば、神経実質に対しての損傷と言うのも極めて軽度、又は無の状態であり、臨床反応上からも改善速度は最も早い領域になります。日常生活に於ける多くの痛みの実態、長期罹患の実態は牽引力やインピンジ、中枢神経系の感作と推測され、これらが解除される事で急速に経時的に症状は改善されていきます。しかし、このような知覚神経・運動神経問わず、神経負荷の状態を長期間放置しておく事で、当該部位の神経線維実質の栄養阻害から神経萎縮となり、何れ痺れへ派生していくものと思われます。
改めて「痺れ」の解釈をしてみます。チネルを伴わない痺れは、治療反応上からの推測でしかありませんが、その多くは神経線維実質の栄養阻害が急速緩慢問わず中長期に及び、細胞実質そのものが萎縮した結果生じているものと推測されます。罹患期が長期であればあるほど改善率は下がり続けるものかもしれませんが、コンスタントに神経実質ではなく神経実質周囲の小動脈拡張に励み、当該部位に対して栄養を求める事で回復していく様を見る限り、それが1つの根拠となるかもしれません。
世間一般的な「痺れ」と言う現象は、神経因性と血管絞扼性に分けられていると思います。血管絞扼性の場合、その多くは上記の理由により即時的に解消されるものである為、そもそも加療動機にはならないと思います。正座をして痺れが出る度に人は治療を求めないものと同様、加療する事になる多くの理由は神経因性によるものです。
神経因性に対しての解釈ですが、時折「痺れ」と言う症状に対して筋緊張・筋硬直・筋痙攣等の表現は何でも構いませんが、これらに随伴する血管絞扼性由来以外にも神経損傷に伴い痺れが出る、又はその図解説明を踏まえての説明は様々な場所で見掛けますが、日常生活に於いて神経の膜が剥き出しになる程の事態と言うのはどの位の頻度で起きるものでしょうか。殆ど起きる事はないと思います。膜が剥き出しになるのはケガの領域です。
neurapraxia、axonotmesis、neurotmesisとなり(最前者は若干異なりますが)、チネルも伴う全く異なる病態になりますが、頻繁に見掛ける痺れの説明や解釈ほど、膜が剥き出しの図解説明で、そこを起因とした痺れ現象であるかのように説明がされていると同時に、それに伴い大きな混乱が生じているようにも見受けられるのも現状で、その状態が凡ゆる治療手段での混乱を招いている一因になっていると推測されます。
膜が剥き出しになれば当該限局部位はチネルを生じると思われますが、それは相当量なエネルギーが加わる、又は長期間の圧迫が伴った場合による外傷由来によるもので、一般的な痺れとは異なります。勿論、脊椎変性疾患の類でも起きない事はないです。特に受傷早期且つ激烈な上肢痛や下肢痛を生じている場合であれば、横突起又は肋骨突起の指圧で放散されるようなチネル様状況も見受けられるものです。

上記理由も踏まえれば、その多くは自然治癒しない為に加療する事になり、罹患期は数ヶ月数年と長期に渡っている知覚神経由来の痛みや痺れ、又は運動神経系由来であれば脱力や筋萎縮も生じているかもしれません。随伴的に病的ではないファシクレーション等も生じているかもしれませんが、これを前提として臨床的疼痛学問を発展させていかなければ、私たちが見て得た情報の基礎的学問からの昇華と言うのは極めて前進し難い結果に陥り続けます。基本的な概念として、学問と言うのは時間進行の概念がありません。流れた時間が概念として組み込まれない、止まった情報を獲得し、そのまま臨床にフィードバックしても時として上手くいかない事もあります。
日常生活では様々な負荷が掛かり続けます。年代や性別、体重や家事労働内容、生まれ持っての骨性関節性の脆弱さも症状発症の速度や内容、自覚の仕方と言うのは変動する事でしょう。重力、摩擦、それに伴う摩擦熱、各関節や構造的異常、奇形や変形等の基礎的身体構造、これらをベースとして日常生活動作による牽引や摩耗、炎症、抗炎症能力等々が加わり、症状と自覚する程の重篤な状態を示す場合もあれば、短期で自然軽快する程度の症状と変動するものです。そして、此処での発症起因は故意であれ非故意であれ、患者意思による自己的な末梢神経領域の選択的細胞死での発症となり、それが可逆・非可逆問わず生じています。
念の為但し書きをすれば、選択的細胞死は電気のスイッチをオン・オフするように急激に死には至りません。酸素欠乏に最も弱い脳をイメージしても、酸素供給が行き渡らなくなったからと突然死ぬことはなく、若干のタイムラグが生じます。今回はあくまで末梢神経系の症状で説明をしたいと思いますが、このように、中枢神経系の選択的細胞死である神経変性疾患を例に挙げますと、緩慢か急速かは扠措きALSやパーキンソンも突如オンオフとはならず、徐々に、と言う表現で進行していきます。
しかし、その細胞死による症状が可逆的か非可逆的かは実は誰にも分からないものであると思います。誰にも分からないものであるから、時として治らないと言われているものが治ったり、治ると言われているものが治らずに死に至る事例と言うのも生じ、可能性としての話でしか出来ないものですが、可逆するものに対して反発した環境を取り込み続ければ、仮死細胞から健全な細胞に至る可能性があったとしても、残念ながら仮死から壊死へと道を進めてしまう可能性もあるもので、それは中枢神経系の神経変性疾患問わず、全ての症状に対して言える事です。
では末梢神経系領域に話を戻しますが、症状の憎悪速度が緩慢か急速かは扠措き、怪我や事故以外で生じる症状の多くは、上記にも書いた通り、チネルを生じない上での神経損傷であり、その原因部位が何処であるかと言うのが1つの加療部位となり、そして治療は可逆的な神経変性疾患へと(症状改善へと)ベクトルを向け続ける、可能性を上げる手段となり、多くの病態の根本的要因を紐解く鍵となります。それが前項でも述べた通り、凡ゆる細胞は血液や血流により栄養、維持、確保、健全な代謝が基礎的にあってこその結果に繋がるものと思います。遺伝性、突然変異、感染性、特定栄養の欠乏による神経障害、又は特定栄養を代謝出来ない先天的な状態をベースとする疾患も勿論あるでしょう。

整形領域疾患は、末梢神経系領域の諸症状の発症説明が第三者的にも理解を得やすく、相互理解を詰めやすい理由の1つに、末梢神経領域症状は発症頻度が極めて高く(罹患者層が多く)、そして自己でも発症原因を掌握しやすく、治療上も選択的脊椎高位治療の結果を以て説明出来る部分に由来すると思います。このように、末梢神経系領域であれば、横軸での選択的な加療が可能な為、1つの答え、原因部位は加療をして答えを導き出し易いものです。
しかし、縦軸による中枢神経系症状に対して加療するとした場合、良いか悪いかは扠措き、全ての脳部位に対して血流量を上げる手段しか存在しないのが現状です。決して悪いものではないかもしれませんが、ポイントを絞れない治療は理解が濁ります。例えば副鼻腔炎様症状や音過敏や光過敏の要因が三叉神経由来であると説明し、加療しても結果的に加療部位は脳全般になる為、理解は濁ります。動悸や呼吸抑制が延髄由来であると説明し、加療しても同様です。
このように、選択的に延髄だけ加療、橋だけ、中脳だけ、間脳だけとは行かず、脳全般の血流量が上がると推測される治療は、仮に結果が出ても説明に濁り、その結果検証し難いネガティブ面が生じ、恐らくこれは今後も解決出来ない問題かもしれません。その点、是非は扠措き薬物治療は非常に興味深い分野であり、選択的にモノアミンの類やホルモン分泌に携われる事から選択的に加療が可能な分野ですし、この事から中枢神経系領域症状に対して選択的治療による検証も可能であり続けるのかと思います。選択的に脳の血流量を上げる薬物もあるでしょう。しかし、その効果を見越す為に多くの反動を抱えると言うデメリットがある事は前々から書いてきたつもりです。
少し話は戻しますが、患者にとっては良くなれば其れで良いのかもしれませんが、末梢神経系領域とは異なり、中枢神経系領域の場合に於ける加療方法は1つしかないと現段階では推測されます。異なる視点で見ると1つしかない、と言う事は各々の中枢神経系症状をヒアリングすれば中枢神経の何処の部位が損傷を受けていると言うのは分かるものですが、仮にそれが血液検査や画像検査等々で異常がない、又は急死に至らない、又は薬剤性中枢神経系症状が生じている場合の患者に対しての説明時に於ける理解が乏しくなるネガティブが生じるものでもあり、これらが疼痛性・非疼痛性問わず、中枢神経系領域疾患の前進出来ない由来になっているものと思います。
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しかし、検査上所見が認められても認められなくても症状があるのが事実であれば、効果の無い、又は薄い、例として挙げれば服薬を止めれば即時的に症状が再燃するのであれば、それは残念ながら治療と言う分野ではなく、対処療法又はプラセボと言うカテゴリで片付けられる事象ともなり、加療せずとも中長期的に症状を発症する事なく生活を送ってもらえる事が誠実な治療である事は至極当たり前なのかもしれませんし、
それを目指していくべきなのかなと思いますが、未だ整形領域疾患は軽視されがちであり、自然発症性の中枢神経系症状(自律神経症状)は原因が分からない事が定義となっている歴史が続く以上、高い負荷の掛かる治療、そして尾が引き続ける治療は今後も続く懸念もあり、残念ながら暫くの間は変わらないと思われます。
しかし、症状発症因子の根底的要因を考えれば、その多くは極めてシンプルな部分に行き着く事も分かるのですが、このようなジレンマが生じ続けているのも又、不思議な程に細分化された星の数程の病名が存在しているからなのかもしれませんし、凡ゆる治療にも抵抗性又は難治性を示した場合は同様な治療に帰結し、更なる悪循環を引き起こしているのも疼痛学問を混乱に追いやっている1つの理由かもしれません。

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