藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

保存療法の問題点と課題点


保存療法の中でも、対処療法と根治療法に枝分かれする事にもなるが、「保存療法とは?」と一言で言えば、手術をしないで治る手段の事を示す。その症状が手術適応なのか不適応なのかグレーなのか、そして、保存療法の適応なのか不適応なのかグレーなのか、それもまた非常に幅広く、個々の術者サイドにより大きく左右するし、患者サイドの見解によっても大きく左右する事になると思う。
針治療は保存療法のカテゴリに分類されるものの、浅層から深層まで同じ力価でアプローチ出来る唯一の手段でもあり、深層に掛けて力価が軽減していく指圧や超音波とは全く異なる性質や性格を持つ手段となる。その為、術者サイドの治効理論にも左右されるかもしれないが、非常にストレートな力を持つ手段でもあり、且つ、経口薬のような全身投与とも異なり、選択的な治療を行える事がメリットである。
選択的な治療と言うのは、例えば頚椎症性神経根症手根管症候群のように、ダブルでクラッシュしていると推測される症例に対しても、それが単独なのか、ダブルなのか、若しくは、仮にダブルだとしても頚椎がメインなのか、手根がメインなのかと、選択的に治療を通して判断が出来る事に繋がる。基本的に患者は「治れば良い」と言う思考であるので、患者サイドにとってはどうでも良い話かもしれないが、術者サイドにとっては極めて重要な判断材料になる。上記症状問わず、選択的に治療を求められる事での一番のメリットは、既存の病態定義の矛盾点が見えてくる事に尽きる。
例えば、それが手根管症候群や足根管症候群、斜角筋症候群、胸郭出口症候群、梨状筋症候群等々の既存の定義は如何だろうか。症状は「痛み」と「痺れ」がメインになっている。しかし、これらの症候群に於いては、実際に「痛み」と言う症状が神経生理的に現れる病態なのだろうか、と言う観察が成し遂げられる。
その多くは、各種症例の患者の手術後の経過をデータとして構築すれば、その時点で答えは導き出せるのかもしれないが、その観点から臨床に昇華させる意義は大きい。要は、治る手段を拾い集めるよりも、治らない手段を集めたほうが、臨床の場では役に立つ。
とは言え、患者にとっては不憫な話かもしれないが、既存病態定義に伴う術後で改善が得られなければ、その多くは世間一般で言う難治例の分類に勝手に入れられる。「手術した⇒治らない⇒難治例」と言う段取りを踏み、レッテルを貼られる患者も少なくないが、そもそもの治療部位が異なれば、治らないのは当たり前なのだ。だから、それを難治例と片付けるのは良くない事だし、「気のせい」「心因性」「思春期」「更年期」「老年期」「精神異常」とされ、更なる薬物投与がされるのは、もっと良くない事である。
とは言え、全ての症例が針治療に於いても単回で治る訳でもない。多くの症例は数ヶ月~数年と言う症状を抱えてから選択される方々も少なくない。既存患者が別件で症状を呈すれば別かもしれないが、その多くは暫く経ってからと言うのが現状であり、発症時期と治癒期間と言うのは、比例傾向でもある。
これも又、例を挙げれば、患者個々の基礎的身体状態が、今何処のラインにあるかで全く異なるかもしれないが、それでも尚、構造的異常がなく、脊椎の不安定性もなく、栄養状態も良く、内科的疾患を抱えておらずと言う、様々な良好な因子が揃っていれば、治癒期間は確実に早い。
そのような見方をすれば、若年層のスポーツ障害系が一番治りが早いと言う結論になるのかもしれないが、治りが早い患者ばかりを集めて治療して「おれ凄い」と言う野暮な事はしたくもない。先日も書いた通り、私が「○○専門」と標榜しない1つの理由がこれかもしれない。その多くは、如何せん、患者は手術を数度も経験し、薬漬けとなり、最後っ屁は初期症状で悩むようなケースは殆どない群が占めてくる。
無駄に投与された鎮痛剤や向精神薬を抜くと言う段階が一番苦労する。たまに勘違いされるが、別に私は向精神薬の減~断薬や、精神症状を専門としている訳ではなく、純粋な整形領域疾患や、自然発症性の自律神経症状をメインとしている訳だが、どうしても症状が長期化すれば、中枢に及ぶ鎮痛剤や向精神薬の存在が延長線上に出てくるだけで、単に派生的に危険性や有害性を述べているに過ぎない。
仮にもそれが不眠症1つとっても、ホットフラッシュ1つとっても、症状軽減を目的とし、向精神薬が投与され、既に「薬を止められない」患者も多い。血中濃度と同一な睡眠しか得られていない事に対し、安堵を示すか、恐怖を示すかは患者次第かもしれないが、血中濃度と合致する睡眠しか取れないと言う状態は、極めて危険な状態でもある事を知ってもらいたい事でもあるし、それが「どういう意味なのか」も知ってもらいたい事でもある。
これらは、「今の結果」ではなく「いずれどうなるか」を見越した話であり、現行医療の薬物投与のスタイルや、現病態に対しての既存病態定義から行われる手術と言う手段をどのように捉え、患者サイドがどのようなチョイスをすれば良いのかも見えてくる。

A)凡ゆる個人的な力不足も認めている事を前提としての事だが、医者からの紹介と言う患者が一番良く治る。一番良く治ると言うのは、中長期的視野を見ながら症状軽減を見越せ、且つ再発率が極限に低いと言う事。再発の定義等々の話も含めれば長くなる為に割愛するが、理由は簡単。
症状の軽重の問題ではなく、医者と言う権威権力から紹介されようものなら、いきなり大先生に見える。だから根気良く通い治る。保存療法の一番の問題点であり課題点は、症状の内容により患者に若干の根気が要る場合があり、短期決着で済まない場合もある。その為、幾ら術者側に根気があっても、患者も根気がいる。その為には相応の後ろ盾が必要。
その一番の後ろ盾が残念ながら医者だったと言う事。次点であれば年代問わず一人暮らしの患者。これが年代問わず同居等々がある場合、根気の要る症例だと患者以外の人間が先に痺れを切らすケースも多い。とは言っても、その多くの症例は2~3ヶ月以内で収束しているものなのだから、2~3ヶ月と言う期間を長いと取るか短いと取るかは、個々の焦燥と性格的な問題もあろう。

B)次に手術を2~3度しても薬を飲んでも回復自覚を得られずと言う、いわゆる、匙投げられた群が治る。多くの症例は「痛み」程度であれば、手術と言う治療手段で全てではないが軽快する場合もある。その理由は割愛するが、それ以上の症状だと極端に手術の威力は落ちる。それが「痺れ」や「脱力」や知覚神経異常が伴う症例である。これは、何故手術では威力が弱いかと言う理由も簡単なのだが、話せば長くなるので省略。
そんなこんなで、今まで信じていた治療手段で幾度となく改善に向けてチャレンジしても、蓋を開けたら「治る」とは著しく異なるベクトルに向かっていた事に気付き、且つ、後がないと言う場合が最も多い。割合としては、一番層が厚くなる。上記の医者からの紹介なんて、一部のマニア医者からしか来ない。
除圧だ切除だ固定だと目まぐるしいが、脊椎外科医とて精々2~3度手術したら、最後は固定術と言う手段を取る。その固定術すら中長期的な視野を含めて考察した場合、最も恐い将来が待ち受けているかもしれないが、短期結果としては良い場合もあるので、これらに気付いていない患者群が、何処まで意図を汲み取れるかは謎。せっかく手術したのだから良き将来を迎えてほしいとは私も思う。これは理想であり本音でもあるが、現実は如何せん異なる。

c)次に、手術を控えているけど、針治療で何とかならんか群。鎮痛剤等々の服薬はあるかもしれないが、仮にも手術と言うイベントが発生していない心身は、患者自身どちらにも天秤を掛けられる。手術を実際に体験していない事から、常に手術をすれば治ると言うイメージを持ちつつも、取り敢えず針を受けてみようかと言う意識が蠢いている為、直ぐにでも再燃すれば即時的に手術の道を選ぶ割合が多い。また、この多くが治療脱落する層ともなる。
これが自律神経系異常や脳神経系機能異常なら別かもしれないが(一部、三叉神経痛に対しての手術もあるかもしれないが)、手術と言うイベントが多く待ち構え、且つ、針治療を受療する疾患は主に整形領域でもあり、この手術の段階まで事が運んでいると、著しい神経症状を呈している人も多く、治療期間中に一時的な再燃を自覚する場合もあり、症状も不安定な場合もある。
それは勿論事前通知しているつもりだが、やはり短気な場合は手術を選ぶ。そしてB)に移行するケースが多い。手術するなら短期的な結果のみでなく、中長期的な結果も患者に伝え、再考を促してもらいたいもの。と言う訳で、多くはB)とC)の層が行き来しているだけで、要は根気と言う部分に帰結する。
これらを統合して考察すれば、極めて重度の症例も軽度の症例も、手術と言う治療手段の重要性が何処まで必要なのか、価値のあるものかと言うのも現場を通してシミジミ感じる。そもそも、手術適応なら手術を勧めているという現実も多くは知らないかもしれないが、日々の痛みから早期脱却する手段として、手術が輝いて見えるのも理解は出来る。但し、そのようなB)群も溢れているのも事実。かと言って、C)群はB)群の存在には目を瞑る傾向もある為、この話は延々とループする。
特にヘルニアや狭窄、すべり、分離等の脊椎変性疾患は、積極的に手術をしようとする医療機関は減っている。その背景(術後結果)を医療機関も知っているから、何とか薬物なりブロックなりの保存療法で対処しようと思っているのかもしれないが、もしかしたら医者以上に患者のほうが手術好きなのかもしれないと言う側面も感じ取れる。

当たり前の事だが、今の発言も過去の発言も、そしてこれからの発言も、あくまで過去の術後症例の短期及び中長期的な結果を鑑みながら発言している訳だし、無論、薬物等々を中長期的に服薬した場合の有害性や危険性も伝えているのだが、その多くは実際に体験しないと分からないものである。
とは言え、整形領域疾患の類に関しては、此れ程までに術式も多く存在し、代替療法や健康器具、健康食品、セルフケア等々が存在していると言う事は、見方を変えれば、漢方薬が治したり、全く理由が不明瞭な物事でも治ると言う話も、何となく頷ける側面もある。
それであれば、なるべくリスクの低い手段から講じたほうが心身共にメリットは大きいような気もするが、手術や薬物等々の最もリスキーな治療手段を講じてから選択手段として初めて視野に入れていくのも多くの一般的思考であると思う。別に全ての手術や薬物治療を否定するつもりも反論する気もサラサラないのだが、短期結果のみを目標とするのならば、手術と言うのも1つの手段かもしれないし、薬物治療と言うのも1つの手段かもしれない。但し、あくまで短期結果のみと言う条件である。
勿論、凡ゆる治療手段に関しても、効いた効かないの話は溢れるが、可能性論、確率論のみを追求した視点で見れば、どの治療手段も絶対論は存在しないのだから、どれが確実性と再現性が高い治療手段であるかを患者自身が精査していかなければならないケースも多く、どの治療手段も短期結果と中長期結果と言う側面もある訳で、これらのトータル的なメリットとデメリットを天秤に掛けていけば、やはり、その多くは保存療法に軍配が上がると言わざるを得ない。

薬剤性由来症状と、針治療の問題点と課題点も併せて述べる。一般的な患者の「針治療が効く」と言う症状は、筋肉痛や関節痛、神経痛と言うイメージかもしれないが、向精神薬を中心とした薬物を服薬し続ける事での副作用や常用量離脱、或いは、減~断薬時に於いても、筋肉痛や関節痛、神経痛様症状が起きる。それらは末梢神経系由来で症状が惹起されているのではなく、あくまで、脳、中枢神経系の機能異常で起きているものである。
ジストニアやジスキネジア、アカシジアやファシクレーション等の、明確な薬剤性由来である症状は知名度が高いかもしれないが、やはり、GABA受容体に作動を及ぼすベンゾジアゼピン系の常用量離脱や離脱症状とて筋硬直を示す患者群は少なくないように見受けられるし、
抗うつ薬系とて、副作用として筋硬直や筋痙攣等の症状が起きる事は添付文書にも書かれており、仮にも患者が何かしかの症状を訴えてきた場合、一番のリスクファクターから鑑みれば、薬物による副作用や離脱(常用量離脱)を先行的に疑う事が必須であり、その後、内科的疾患、整形領域疾患、日常生活動作を起因とした症状と順序を追って疑う必要性は至極高いと思うが、
実際に臨床現場では、患者側はどのような反応を示すかと言えば、患者自身が仮にも向精神薬等々の知識を既知としておらず服薬、そして症状を訴えてきた場合、薬剤性由来⇒内科的疾患⇒整形領域疾患⇒日常生活動作で見られる事を最も嫌うケースが少なくない。
要は、自身が好き好んで飲んでいた睡眠薬が現在の症状を引き起こしているとは考えたくもないし、そのような見解を今まで行ってきた人間は周りにいなかったかもしれないし、内科的疾患を疑われれば、仮にも私は即時的に精査依頼を出す為、針を刺して治る疾患ではなく、面倒臭い事態になった思われるかもしれず、整形領域疾患であれば、過去の手術や鎮痛剤等の手段を否定されるかもしれず、と言う事になる為であるのかもしれないが、
通常、現症状に対して惹起した経過を観察し、疑問を投げ掛けていく事は当たり前。肩が痛いからと「へいがってん」と、肩を揉んだり、針を刺すような事はしないし、針治療に来る迄の時点で、「そのような治療をしてきても良くならない」と言う経過を踏まえているのだから、別に私が肩を揉んでも、肩に針を刺しても良くならないんじゃないか?と言うのが1つの見方であり、仮にも過去受療機関でTrPブロックを疼痛部位に受けていての治療反応性、内服薬や外用薬の治療反応性も全て伺う事になる為、
仮にも麻酔の作用時間しか効いていなかったか、もしくは麻酔の作用時間すらも効いていなかったか、と言うのは通常、重要な聴取事項にもなる。要は、症状惹起の根源が末梢神経系由来か、中枢神経系由来か、薬剤性に伴う中枢神経系由来か等々の選別も、この時点で可能となる。
勿論、TrPブロックが全く効かないと言う話なぞ多く転がっており、その多くは枝葉の治療である為、極めて中枢部を処置していく事で症状改善へと導けるものでもあるのだが、それでも尚、このような薬剤性に伴う中枢神経系症状と言うのは、限りなく治療の反応性と言うのは特異的である。
薬剤性と言うのは、その名の通り、原因は今現在服薬している薬物に由来する。故に、原因を除去する方法と言うのは、薬物を止めるしか方法はない。しかし、その多くは非常にカジュアルに睡眠薬を飲み、気分が焦れば安定剤を飲み、落ち込んでればアッパー系の薬を飲みと、まるで嗜好品としての扱いで薬を飲んでいる患者層が圧倒的に多い事は事実であり、そのような患者から向精神薬を引き裂く事は、大好きなタバコやアルコールやギャンブルやスポーツカーやバイクやスポーツからの決別を求める事と同意であり、止められるものではない。
止められないものを止めろと言っても止められるものではないのだから、当たり前のように反発される。反発されても構わないが、それが症状の軽減に繋がる事もなく、恐らく、このような患者は薬剤性である事を認めない術者を探してショッピングし続ける事になるだろう。故に、これらの向精神薬由来とする患者群に関しても、相当重篤化してからでなければ、自身の薬物が原因である事を認めず、その後から減~断薬しても、やはり、大なり小なり厳しい禁断症状に見舞われる事になる。
どちらに転がっても厳しい状況に追い込まれるのだから、早期段階で必死になった人間が早期に解決出来るものではあるのだが、それ程迄に向精神薬と言うのは患者を拘束している存在である事も伺い知る事が出来る瞬間である。

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  ~針治療から病態定義の見直しを~