藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

ベンゾ系抗不安薬に関する2つの論文


ベンゾジアゼピン系薬剤の長期処方による被害は計り知れない広がりと深さがあると、多くの方の体験談、メールのやり取り等から実感している。
それはバルビツール酸系抗精神病薬のような「劇的」な異変をすぐさま人体に起こすものではないが、時計の短針のように、静かに、気づかぬうちに肉体を侵食していく。
精神医療の問題の、大きな部分(数的に)を占めるこのベンゾジアゼピンという薬剤について、
最近、同じ筆者による、二つの資料を読んだので紹介する。
 
書いたのは戸田克広医師(専門は繊維筋痛症など中枢性過敏症候群。所属は、


まず一つは、抗不安薬による常用量依存――恐ろしすぎる副作用と医師の無関心、
精神安定剤の罠、日本医学の闇――第一版』電子書籍)という。
 
イメージ 1
題名から推しても、戸田氏は、
ベンゾジアゼピンについてかなり本当のことがわかっている医師ではないかと思われる。
もう一つ戸田氏の書いた論文は、
『臨床精神薬理 2013年6月 ベンゾジアゼピンと処方薬依存をめぐる問題』の中の、
ベンゾジアゼピンのよる副作用と常用量依存』である。
どちらも内外の文献――といっても日本の文献について、
氏は「系統的に調べる手段がない」としているので、
ほとんどが海外の文献によるものだが、
戸田氏は「ベンゾジアゼピン」あるいは「抗不安薬」(あるいは「抗不安の」)という言葉で検索し、
それらを含むすべての英語論文の少なくとも抄録はすべて読んでいるという。
当然のことながら、論文の内容もそれを裏付けるもので、
これほどベンゾジアゼピンについて徹底的に調べつくした医師は、おそらく戸田氏のほかいないと思う。
 
私は戸田氏を直接取材したことはない。しかし、書いたものを読めば、
どの程度信頼できる医師なのかは、なんとなくわかるものだ。
多くの医師は、ベンゾジアゼピンの問題を語るとき「患者の過量服薬」という言葉を用いる。
それはあたかも患者が勝手にベンゾを過量に飲んでしまっている、
だからこのような問題(副作用や離脱症状の出現等)が起きるという主張である。
しかし、戸田氏は前出の本の中で次のように書く。


「(本書では)日本における抗不安薬の使用状況の異常さを述べる。
抗不安薬を乱用している医師は他の向精神薬も乱用している可能性が高く、
抗不安薬を適切に使用している医師は他の向精神薬も適切に使用している
可能性が高いと私は推測している」


抗不安薬を乱用しているのは、患者ではなく医師――これがまさに実態なのだ。
しかし、これまで精神科医たちは決してこのような言い方をしてこなかった。
「常用量依存」(臨床用量依存)というものを認めないがゆえの、
「患者の過量服薬」という表現なのだろうか。精神科の薬についてしっかりとした
認識をもっているのは、残念ながら精神科医ではなく、他科の医師である場合が多い。
戸田氏も、繊維筋痛症の治療の過程で、ベンゾ系抗不安薬を長年飲んでいる患者が多いため、
「痛みの治療と共に抗不安薬を削減、中止する治療」を行わざるを得なかった。
そうした経験から出てきたベンゾジアゼピン系薬剤(おもに抗不安薬)への、
あるいはそれを処方する医師への大いなる批判なのだ。
残念ながら、戸田氏は「痛みの治療」は行っているが
(その過程で、抗不安薬の減薬、断薬は避けて通れないため行っている)、
「痛みを抱えていない患者さんが常用量依存になった場合には、抗不安薬を削減、
中止する治療を私は行っていません」という。
つまり、このブログの読者から非常に多く問い合わせのある
「減薬断薬できる医師(医療機関)」として、残念ながら紹介することはできないということである。
 
このエントリは主に戸田氏の論文によるものだが、
現在離脱症状で辛い状態にある人は、さまざまな記述に過敏に反応してしまうことも考えられるので、読まない方がいいかもしれない。戸田氏も「すでに常用量依存になっている人にとっては知りたくない内容も記載しています。それを知りたくない方は本書を読まないでください」と書籍の「はじめに」に断っているくらいだ。
また、今回の記事は、戸田氏の電子書籍からではなく、論文を中心に紹介する。
戸田氏の論文は、それがいかに多くの文献に当たったかの証拠ででもあるように、
かなりの情報量になるため、箇条書きにした部分もある。
その際、その事実を裏付ける出典を示していないが、戸田氏の論文中には、
当然のことながらソースとなる文献が末尾に明示されている。

デパスエチゾラム)について
日本でもっとも使用頻度が多いBZD(ベンゾジアゼピン抗不安薬)はデパスである。
しかし、デパスは正確にはベンゾジアゼピン系ではなく、チエノジアゼピン系である。
(したがって、国際麻薬統制委員会の出す数字にはこのデパスが含まれておらず、
そのため、日本のBZDの使用量は他の先進国の半分程度という数字になってしまっている。
デパスを含めると、日本の抗不安薬の使用量は「世界最多とは断言できないが、
その可能性が高い」と戸田氏はいう。)ちなみに、日本の単位人口あたりの抗不安薬の処方件数は、
米国の約13倍という報告がある。デパスが使われているのは、
世界的にみて、日本とイタリア、韓国のみである。


主な抗不安薬の作用時間と力価

以下、主なBZDの力価と作用時間を、戸田氏の表を参考に示す。
エチゾラムデパス)     高力価 短期作用型
ロラゼパムワイパックス)  高力価 中期作用型
アルプラゾラムソラナックス)高力価 中期作用型
         (コンスタン)
クロキサゾラム(セパゾン)  高力価 中期作用型
フルジアゼパムエリスパン) 高力価 中期作用型
メキサゾラム(メレックス)  高力価 長期作用型
クロナゼパム(ランドセン)  高力価 長期作用型
        リボトリール
フルトプラゼパム(レスタス) 高力価 超長期作用型
ロフラゼプ酸エチル(メイラックス) 高力価 超長期作用型
フロマゼパム(レキソタン)  中力価 中期作用型
ジアゼパムセルシン)    中力価 長期作用型
       (ホリゾン
クロチアゼパム(リーゼ)   低力価 短期作用型
フルタゾラム(コレミナール) 低力価 短期作用型
トフィソパム(グランダキシン) 低力価 短期作用型
クロルジアゼポキシド(バランス)低力価 中期作用型
ロラゼブ酸二カリウムメンドン)低力価 長期作用型
メダゼパム(レスミット)    低力価 長期作用型
オキサゾラム(セレナール)   低力価 長期作用型
タンドスピロン(セディール)  これはセロトニン作動薬で、ベンゾではない

 
離脱症状が起こりやすい危険因子

・使用量が多いほど
・力価が高いほど
・作用時間が短いほど
・減薬期間が短いほど
・使用期間が長いほど


長期使用による副作用
抗不安薬の長期使用による副作用として、次のものが挙げられている。
転倒、骨折、交通事故、運動機能の低下、薬物乱用性頭痛、抑うつ症状、
記憶力の低下、認知機能の低下、認知症骨粗しょう症、せん妄、自殺、
過量投与、医療用麻薬の使用、免疫系の障害、冠動脈疾患、死亡率の増加、
睡眠の悪化。さらに発がん性の可能性もあるという報告もある。
40~42歳の男女それぞれ7000人以上を、平均18年間観察したコホート研究。
抗不安薬あるいは睡眠薬を投与すると、死亡の危険性が高くなり、
とくに女性ではさまざまな他の因子を除外しても死亡の危険性が1.7倍、統計学的に有意に高くなる。
睡眠薬の長期使用により男女とも死亡率が増加する。
発がん性については、あるという報告と、ないという報告両方がある。


BZDの長期使用による副作用の多くは、
個人の過失や加齢が原因であるとみなされやすいため、副作用とは認識されにくい。

長期作用型のほうが安全か?
アシュトンマニュアルでは、短期作用型を服用している場合、
離脱症状を軽減させるため、長期作用型のものに置換する方法がとられているが、
果たして、長期作用型は安全なのかという疑問がある。戸田氏の調査で、
いくつもの研究結果を精査したところ、以下のような結論が導き出されている。
長期作用型は、蓄積が起こりやすいため、日中の過鎮静が起こりやすい。
短期作用型より長期作用型のほうが、せん妄になりやすい。
短期作用型より長期作用型のほうが、交通事故を引き起こす危険性が高い。
高齢者では、(超)長期作用型BZDは、長期間にわたり鎮静作用を示すため、
転倒、および骨折の危険が高くなる。転倒した入院患者を調べると、
抗不安薬睡眠薬は有意に転倒の危険性を高めるが、
中でも、エチゾラムデパス)による転倒の危険性は一段と高い。
3ヶ月長期作用型BZDを使用した場合と、3年間短期作用型BZDを使用した場合では、
後者のほうがせん妄や交通事故を起こしやすい。
    
BZDの適切な使用方法
長期使用に陥りやすいため、睡眠目的でBZD(ベンゾ系抗不安薬)を使用すべきでない
BZDの適切な使用期間は1~3か月程度であり、遅くとも6か月以内には中止すべき。
それ以上の使用は有害である長期間BZDを使用すると、逆に不安症状が出る場合さえある。

依存発生率
 
BZDを通常の治療量で規則的に服用しても、
2か月以上処方され場合、3人に1人が離脱症状のために依存が形成されると報告されている。
一般開業医の外来患者でBZDを平均7年4か月(9~120か月)使用している115人の、
少なくとも40%がBZD依存であると報告されている。

抗不安薬の適切な使用期間
先進国のガイドラインでは、4週間を超えてBZDを使用すべきではないと規定されていることが多い。
若年層ではBZDの1日使用量を可能な限り減らすべきであり、
2、3か月を超えるべきではないとしている。明確な根拠は示されていないが、
投与中止時の離脱症状の出現頻度は、3か月以上の連用例で高くなる。
2~4週間はBZDの危険性より有用性がまさるが、それ以上の期間は有用かどうかは不明瞭。
BZDは8~12週間かけて漸減し、6か月以内に終了することを勧めている。

複数の抗不安薬
BZDの併用には科学的根拠はなく、副作用の危険性が高くなるため行うべきではない。
それは臨床症状を改善する利点よりも、むしろ副作用を助長し、
患者にとっては不利益になることが多い。

常用量依存のどこが悪いのかという意見
これは、まさに多くのベンゾを処方している精神科医が口にするセリフである。
「降圧薬や血糖降下薬を長期投与することと、BZDの長期投与のどこが違うのか。
BZDによって穏やかな生活を送ることができるのであれば、それでよいではないか」という意見だ。
まず、高血圧や糖尿病の場合、降圧剤やインシュリンは必須である。
しかし、痛み、不眠、不安症状においては別の薬での治療も可能であり、
BZDは必須とは言えない、と戸田氏はいう。
さらに「BZDによって穏やかな生活を送ることができるのであれば、よいではないか」という
意見については、それは投与初期の睡眠改善効果や抗不安効果のみについて言えることであり、
前述のようなさまざまな副作用を無視した言い分であるとする。
そのうえで、戸田氏は医師への認識の甘さを鋭く指摘する。
「BZDの長期使用による副作用は、個人レベルでは患者は医師に気づかれにくく、
個人の不注意(交通事故など)や加齢が原因(転倒など)と見なされやすい。
そのため、BZDは副作用の少ない安全な薬であると信じている医師が少なからずいる。」
しかし、インフォームド・コンセントの観点から言えば、副作用や常用量依存を患者に説明せず、
半年以上BZDを使用することは、説明と同意に違反している、と戸田氏は断言するのだ。

医師の認識の低さ
戸田氏の意見では、BZDは減薬の期間も含めて、6か月以内に中止すべきである。
にもかかわらず、年単位の漫然処方がざらであり、
「最大の危険因子は、副作用や常用量依存に対する医師の認識の低さであると筆者は推測している」と書いている。つまり、ベンゾジアゼピンに関する根本的な問題点は、患者側にあるのではなく(しかし、人によっては、ベンゾの離脱症状に苦しむ人を違法薬物による中毒者と同様に受け止める人もいる。
 
要するに、飲んだ人がいけない、弱い、依存心が強いというとらえ方だ)、
戸田氏は、はっきりと、処方する医師の認識不足(無知)、あるいは安全であるとの思い込み、
副作用を見抜く眼力のなさを指摘しているのだ。
そして、香港での例をあげている。
「香港ではすべてのBZDに対して1992年から通常の処方箋とは別に、
供給と調剤について詳細な記録をつけることが求められるようになった。
麻薬に準じた規制である」という。
日本でもうつ病学会の発表したガイドラインでは、
BZDの長期使用の危険性について警告されているが、
臨床の現場では、そうした学問レベルの警告は守られていないとして、
 
「医師のモラルに頼っていたのでは現状を変えることができないため……法的規制が必要であると考えている」
 
戸田氏も指摘しているように、日本ではベンゾジアゼピンの使用期間の規定はいっさいない。
2年前、2011年厚生労働省は、睡眠薬抗不安薬3剤以上の多剤投与した場合に、
診療報酬上で何らかの制限を加えるとしたが、
処方期間についての規制には至らなかったのだ。
報告書には、NICE(英国立医療技術評価機構)が定めた
「2週間以上のベンゾジアゼピン投与は行わない」という文章も明示されているにもかかわらず、
自国でそれを実施しようという動きにならないのはなぜなのだろう。
ともかく、私ももう医師のモラルなど信用する気には到底なれないので、
ベンゾについては、法的規制(罰則のある)がぜひとも必要と考える。
ベンゾの問題はそれを処方する医師の問題である部分が大きいのだ。

乱用患者
戸田氏の論文の載った専門誌の巻頭には、
国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦氏の論文が掲げられている。
しかし、同じことを言うにも、戸田氏の表現といかに違うか……。
「いまや睡眠薬抗不安薬はわが国第2位の乱用薬物であり、
乱用患者の大半が精神科医から「薬物」を入手している」

「乱用患者」とはいかなる患者のことだろう? 
戸田氏ははっきりと「医者の乱用」と言っているのと大きな違いである。
しかし、松本氏は、論文の「おわりに」の部分で次のように書く。
精神科医は『白衣を着た売人だ』という耳の痛い批判を再三聞かされてきた。
我々精神科医はなんとしてもこの汚名を払拭しなければならないし、
『乱用するのはパーソナリティ障害の患者だけだ』などといった、
患者の個人病理のみに責任転嫁する、よくあるタイプの弁明を許してはならない。
 
……いま精神科医は、医療者としての仁義を問われており、
精神科治療はこれまでの極端な『薬物(療法)依存』から脱却することが求められている。
 
……もちろんそのような物言いをすれば、筆者は精神科医仲間から糾弾され、
孤立へと追い込まれてしまうかもしれない。しかしこのままでは、
精神科医のほうこそが医療界で孤立しかねない状況にある、ということを忘れてはならないだろう」

となにやら悲壮な決意のもと、この文章を書いたようだが
、この世界を意地の悪い見方しかできなくなった私から言わせてもらうと、
「決して患者側へは来ようとせず」、あくまでも「医師の立場を守りながら」書いているようにしか
読めないのだ。それは「乱用」を患者の責任にしたい本音が、
それを否定すればするほど透けて見えてしまうからだろうか。
松本氏は、「いまや睡眠薬抗不安薬はわが国第2位の乱用薬物であり、
乱用患者の大半が精神科医から「薬物」を入手している」と書きながら、
医師の責任をすぐさま問おうとせず、文末においてようやく、
医師の極端な「薬物(療法)依存」をかなり遠まわしに戒めているだけなのだ。
松本氏の論文には、「問題となる精神科医の処方行動」という項目もあるが、
やはり「乱用患者」という言葉のほうがはるかに重く、読者には、
いわゆる「薬物中毒患者」について語っているという印象を強く与えてしまう。
薬の問題、とくにベンゾジアゼピンの問題は、服用している人を「乱用患者」ととらえている限り、
決して解決しないと思う。世間もまたそのような理不尽に厳しい目を向けることを、
それは助長してしまい、いつまでたっても、戸田氏の指摘する「医師の責任」へと話が進まない。

まずは、医師のほうが変わること、いや、それは望むべくもないのだから、
医師の処方を規制する法律を作ること、それが何より先決だろう。
そして、現在減薬・断薬を目指す人たち、
離脱症状に苦しむ人たちをサポートする施設、組織がぜひとも必要である。
常用量依存は「医原病」である。その認識にたって初めて、
こうした動きも社会に受け入れられることになる。乱用でなく、臨床用量依存なのだ。
そのことをぜひ多くの人に知ってもらいたい。

【予約制】 0173-74-9045 (繋がらない場合は090-3983-1921)
【診療時間】 7:00~21:00 時間外対応可(追加費用なし)
【休診日】 なし お盆、正月等々も診療しております
緊急性の低いご相談に関してはメールでも受け付けております。
fujiwaranohariアットtbz.t-com.ne.jp
アットマークは@に打ち直してご送信下さい。お返事には数日要する場合も御座います。 
 
イメージ 2~鍼治療から病態把握の見直しを~