藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

「痩せ」「筋減少」「ALS様症状」に至る過程と随伴的合併症の考察


ベンゾジアゼピン離脱症状群(Benzodiazepine withdrawal syndrome)(以下 BZD離脱)で易惹起性の高い症状に「痩せ」「筋減少」「ALS様症状」を標榜とした症状を訴える患者は少なくない。患者個々での表現方法は異なれど、結果的に現場でヒアリングすると類似性の高い進行と経過を示す事から1つの現象としてまとめるが、これらの状態に陥る理由とBZDの絡みを考察する。
ご存知の通りBZDの主作用は抗不安作用、睡眠作用、筋弛緩作用、抗痙攣作用、健忘作用を持ち、様々なシチュエーションで用いられるのかもしれないが、日本特有のガラパゴス的問題の1つに処方期間の制限が無い事が挙げられ、他国の多くは副作用や依存形成を懸念し、2~4weeksの期限を設けているものの、日本には存在しない事から1年2年、5年10年20年の服薬歴は当たり前となる。
得てして脳内のGABA濃度を高め、全身性の抑制を求む薬物を中長期に渡り服薬する事で獲得される薬剤耐性が生じた場合、薬物が標榜する反応性とは真逆の身体反応が呈される場合がある。先述した主作用の真逆を考えてみても何となくイメージは付くと思うが、不安になり、眠れなくなり、筋肉は緊張し、痙攣する。
同量による薬剤耐性の獲得による逆転現象だけで惹起される問題ではなく、減薬期及び断薬期でも同様な逆転現象が起きるリスクも極めて高く、これらも全て中枢神経系に反応を及ぼし、脳神経伝達物質の自己分泌能の問題を惹起したり、器質性の高い受容体の変性や減少を示唆された状態が生じた結果、継続的に異常な状態である症状として患者に自覚させるものかと推測される。
経時経年でこれらの症状が継続する、又は憎悪し続ける事によって、それを「遷延性」「永続性」「後遺障害」と称する群も存在するが、現段階ではこれらの事実性の有無は扠措き、視覚的な身体変化に恐怖心を煽られる『「痩せ」「筋減少」「ALS様症状」(以下 筋減少)』に陥った群に関して治療反応性から考察された理由を幾つか述べてみたいと思う。個人的な見解にはなるが、常用量離脱含むBZD離脱に於ける筋減少には特徴的な所見が取れる。本態性ALS(以下 ALS)と類似性の高い進行形の症状を惹起していると考察する群も少なくないが、実際に現場でALS患者を治療をしている限り、BZD離脱で生じる筋減少その進行や症状惹起のプロセスは全く異なる。
ALS自体の原因が、幾つもの仮説が現段階でも存在する事から定義は存在するものではないが、症状惹起の定義や原因は扠措き(亜型も多くあるかもしれないが)、その多くは運動神経細胞の経時経年の死滅的プロセスを踏む事には変わりなく、これらの結果「痩せ」だけではなく、筋肉の「運動」そのものが出来なくなり、最期は眼球筋のみ、又は眼球筋すら動かせなくなるTotally Locked-in Stateとなる。
しかし、BZD離脱で訴える筋減少は、治療の有無問わず症状の経過観察(追跡)をする限り、ALSのような運動神経が進行的に死滅していく状態には全くならず、多くは離脱症状期が仮にも12ヶ月と言う期間で存在した場合、離脱症状から脱出出来る12ヶ月を前に進行は停止しているケースが大半である。
これらの事象も踏まえ考察すると、そもそもBZD離脱で生じる筋減少はALSと同様の最期を迎える可能性は極めて低い事が分かる。では、BZD離脱に於けるこれらの筋減少を示唆する状態は如何にして生まれるかを考察する必要性が今度は出てくる。
結論から述べると、筋減少はBZD離脱の1次的要因ではなく、結果論として発症した2次的要因で症状を呈していると推測する。先述した通り、BZDは脳内のGABA濃度を高め、身体及び精神の抑制(安定)を標榜する薬物である以上、耐性獲得又は減~断薬に伴い逆転現象が生じた場合に伴う簡便なイメージは、持続的な高緊張が身体及び精神に齎す。この事は交感神経症状が惹起されている事とイコールで結んでも良いのかもしれない。後にも述べるが、人間は生きてれいれば内外因子により高い緊張やストレスは受けるが、それは一過性で済むケースが大半であり、身体・精神症状も一過性で済むと思う。BZD離脱の問題は、それが一過性では終わらずに継続性を伴う為、日夜延々と症状を呈し続け、恒常性が全く効かない状態に陥る事に不安や恐怖を呈する事になる。
この交感神経優位の段階でも凡ゆる状態が想像付くが、代表的なものをピックアップすると(勿論、皆に同様な症状が全て出る事はないと思うが)、頭痛、発汗、振戦、動悸、悪心、不安、熱感、冷感等々になる。このような交感神経の持続的過剰亢進による随伴的な身体状況とし、交感神経の持続的亢進による火消しの為にHPA系が強く活動する事になると思われ、視床下部からのCRH、下垂体前葉からのACTH、副腎からのコルチゾールの分泌の類が、日常的なストレスとは掛け離れた程に生じているBZD離脱のストレスにより過剰な活動を続ける事になる。※余談ながらBZD離脱で他の類似疾患としてよく挙げられる甲状腺機能低下症様状態に関しても、これらのホルモンの出処も下垂体前葉である為、もしかしたら同様な説明が出来るのかもしれない。
コルチゾールの分泌量(CRHやACTH含む)が著しく生じ続ける事によるネガティブフィードバックにより、視床下部及び下垂体前葉機能の低下が生じる事も容易に推測は付く。コルチゾールは血糖値を上げる役割も持っている為、上昇した血糖値を下げる為にも膵臓のβ細胞からのインシュリン分泌も今度は著しくなり、低血糖様状態(眠気、脱力、めまい、易疲労性、集中力低下、霞視、見当識低下、不安、抑うつ)に陥る可能性もある。
先述した通り、未服薬の人間であれば内外の因子により高い緊張やストレスが生じたとしても、それは一過性の場合も多く、一過性ながらもこれらの分泌によってある程度の平衝は保つ事は可能かもしれないが、BZD離脱の問題は一過性では終わらず、継続する事に症状の甚大さを呈する事になると思われ、それは各種分泌物及び分泌機能の疲弊を簡単に招く事も考えられる。
勿論、低血糖状態が続けば生命の危機である事には変わらない為、血糖値を上昇させるホルモンは分泌される。それが先ほど挙げたコルチゾールの他、グルカゴン、ノルアドレナリンエピネフリン)、成長ホルモン等の類となり、これらとて度が過ぎれば身体や精神に悪影響を及ぼす。
このような現象が日内日差関係なく負のスパイラルが日々強大に継続し続けた場合、ケトン代謝が優位になる(なってしまう)場合も考えれる。筋減少の原因はケトン代謝優位のみならず、「食欲がない」と言う症状を持つ人間も少なくないものだが(それがBZD離脱の1次か1次をベースとした2次かは分からないが)、上述理由も基礎的身体状態として保有し、且つ、ケトン代謝が優位に働き続ける事により原因不明で急激に痩せていく(筋減少していく)感覚に陥るのかもしれない。
BZD離脱で筋減少を訴える患者表現をヒアリングする限り、「食べても痩せる」「見た目が急激に痩せていく」「体重は変わらない(又は微減)」と言う表現が最も多い印象を受けるが、ALSと異なる点は運動神経障害が出ていない点であり、手指足趾の動きは良好である(他の神経症状を併発していない場合に限るが)。筋減少を訴える患者群に併発している諸症状に「爪の変形や伸びが悪い」「髪質の変化や髪が伸び難い」「肌質の保水機能が低下」「皮膚表層の傷が治りにくい」も抱える群が多いが、治療反応性を追跡する限り、筋減少の改善と平行して改善されている事も多くの患者は訴える事から、恐らく筋減少の1つの理由にケトアシドーシス性の高い状況であった事が推測される(勿論、表現としては不適切である事は分かっている)。
BZD離脱を抱える群がデトックスと称し、断食や厳格な糖質制限を執り行うと急激に状態が憎悪する理由でもあるし、その逆に糖質の積極的な摂取やブドウ糖液の静注で軽快しているのも、その理由の1つかもしれない。
BZDの反応部位は脳内全般に渡る受容体を標榜する事になる為、BZD離脱の際も脳内全般に渡る中枢神経系症状を呈する。その為、現在の症状が脳の部位の何処がどのような理由で発症しているかと言うのは断言出来兼ねる部分もあるが(各々がフィードバックし合って機能している事から断定するのは不可能に近い)、BZD離脱に於ける患者観察と治療反応性を伺う場合、筋減少及び随伴的症状に関してはBZDの1次的要因で惹起されたのではなく、上述理由で生じた2次的要因で惹起された事が分かる。その多くは上記症状プラス、ミオクローヌスやファシクレーションも併発しているケースも多く、ミオクローヌスであれば大脳基底核由来とは推定されるが、ファシクレーションであれば筋減少に伴うスパズムが各当該部位で生じているから故に起きているのかもしれない。
上記考察の中でHPA系の過剰な状態を取り上げた為に余談ながら追記するが、視床下部や下垂体機能前葉の低下が生じた場合、外部からのコレステロール摂取は控えたほうが経過は良好な印象を示す。コレステロール自体は人間にとって害悪なものであるとは考えていないが、上記理由を基礎的環境として抱える場合、自己の恒常性で視床下部や下垂体機能前葉の回復を見越す必要性が出てくる。
先述した通り、BZD離脱を抱える群の多くは現症改善の為にと様々な栄養素の選択をしており、先ほどの断食や厳格な糖質制限をしている群の他、コレステロールを積極的に摂取している群も少なくない。但し、視床下部及び下垂体前葉機能の低下群の場合、外部からのコレステロールステロイド)摂取に日々励んだ場合、自身でHPA系のネガティブフィードバックを作り上げている恐れもあり(自己の恒常性に制限を掛けてしまう)、個人的には積極的に摂取してほしいとは思っていない。

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