藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

失敗から学ぶ

失敗例を公表する事は、当院にとってはマイナスでしかない。
只、失敗を吐き出し考察しなければ成長は無いと思う。
  
50代 細身 女性
 
主訴左首の寝違え
 
既往⇒30年来の起き掛け時に起こる両側の指先の痺れ。
         整形外科に受診。原因不明と言われ今に至る。
         子宮筋腫で数年前に手術にて摘出。他、これと言った既往はなし。
 
鍼灸治療の経験有⇒腰背部から下への治療経験はあるが、頸や肩へ鍼灸治療を行った経験はなし。
 
左首の寝違えにより、発症当日に来院。
首を回す事は出来るが、左を向こうとすると、ビーンと張った痛みが左首から肩に走るとのこと。
仕事を抜け出して来院。時間がない為、30分以内で終わらせるよう患者からの指示。PM200
 
触診により、両側の側頚部から肩背部にかけて広範に渡るTPを触知。
特に左が強く張っている。熱感なし。
右を見て横向きになってもらい、左胸鎖乳突筋左後斜角筋僧帽筋上部に寸6の5番にて単刺。
その後、座位になってもらい一度首の回り方を確認してもらう。
 
座位のまま、両側の
前斜角筋中斜角筋胸鎖乳突筋後斜角筋僧帽筋上部肩甲挙筋頭板状筋
頚板状筋に単刺。全て寸6の5番。
 
首は回してもほぼ痛くなくなるが、左を向くと左僧帽筋の上部に若干の引きつれが残る。
患者も満足して頂いた為、なるだけ首は回さず無理はしない事を告げお帰り頂くPM2:20
 
PM8:00再来院。
治療後から1時間程度は調子が良かったのだが、その後どんどん首が痛み始め、首を回せないどころか
両腕も肩から上以上に挙げられなくなる。痛み始めてから仕事の休憩時間に同僚に左首を痛い位に揉んでもらったとのこと。時間がある為、治療時間に制限はなくても良いと言われる。
 
首が左右に全く回らない。腕も挙げられない。握力等の減退は一切なし。熱感なし。
 
まずは仰向けになってもらい
上腕三頭筋肘部付近上腕二頭筋停止部付近上腕二頭筋筋腹三角筋前部三角筋中部小胸筋大胸筋前斜角筋中斜角筋胸鎖乳突筋の順に寸6の5番で置鍼20分。全て両側。
 
その後、うつ伏せになってもらい
大菱形筋小菱形筋上後鋸筋肩甲挙筋僧帽筋上部頭板状筋頚板状筋半きょく筋
後斜角筋胸鎖乳突筋の順に寸6の5番で30分の置鍼。全て両側。
 
最後に座位になってもらい、取りこぼしが無いか触診。
左の鎖骨下筋三角筋後部肩甲挙筋に硬結を触知。寸6の5番で単刺。この際、肩甲挙筋への刺鍼時に「効いたー!」と思う位の響きを感じたとのこと。その後、抜鍼をし、患者に確認してもらう。
 
首の痛みは全くなくなり、腕もいつも以上に回るようになったと喜んでお帰り頂く。
もうこれからの時間は寝るだけの為、お酒は飲まずにマクラを低くし、安静にして頂くよう伝える。
 
翌日の朝方、患者から連絡あり。
朝起きようと思ったら、左の肩に寝違えをした時に起こる痛みと同じ激痛が走った為、身体を起こす事が出来ないとのこと。横になっている分には痛みはなく楽。頭を起こそうと思うと痛みが走る為、恐くて起こせない。数十年来の指先の痺れは消滅していると共に、普段からバッと張っている両肩はフワフワになっていると喜んでいる。が、私は全然喜べない
 
患者宅へトイレや食事はしなければならない為、痛みには耐えながら何度か身体は起こした。
どのように起きれば良いか分からず、今朝は起きるのに30分も掛かったとの事。
今一度発症してからの状況等々を聞くと、
 
・十数年来の指先の痺れもある事から、前々から首や肩は悪かった。
・仕事では常に下を向いているような状態。力仕事あり。
・寝たきりの母の介護で呼ばれる機会が多い。
・仕事の休憩時に左首を揉んでもらった。
・再来院の前に飲酒をしていた。コップでビール一杯程度。
・昨日の治療後、就寝前に痛い位に旦那さんに左首を揉んでもらった。
 
恐らく、痛い身体を無理に何度も起こした事と、就寝前の強揉みで炎症を拡大させ、左側頚部全体が硬直し、熱感を持っている。痛い箇所に円皮鍼をし、冷湿布を貼る。
 
右を向いて横向きになり、肩を頭に持っていくように縮めてもらうと痛みが引くという旨を伝えて試してもらったら「楽だ」という事で、横になっていられる時は、この姿勢でいてもらえるように伝える。
 
翌日AM9:00 様子を伺いに患者宅へ
 
昨日の夕方頃より、自力で首を持ち上げる事が出来るようになった為、生活に支障は無くなった。
熱感はないが、左側頸部に触れると痛みを発する。
胸鎖乳突筋と僧帽筋上部に寸6の4番を4本ずつ40分置鍼。
抜鍼後、暫く横になってもらってから起き上がってもらうと、ほぼ無痛になる。
 
幾度かの治療で最終的には炎症の洗い流しと除痛は出来たようだが、
何故一度目の治療で、若しくは二度目の治療で、急性期に起こる炎症を食い止められなかったか。
 
原因として考えられるのは
・頸部への鍼治療が始めてにも関わらず、5番の鍼を使用したこと。
 仕事を抜け出してきたこと、痛みが強く出ている事による神経の高ぶりを把握出来なかった。
 
・「安静にして」とは伝えたが「揉まないように」と伝えなかった事。
 予測不可能な状況もある事を治療家としては念頭に置いておかなければならない。
 発症初期のマッサージや温熱療法は 炎症を急激に悪化させる原因となる。
  過失は旦那さんにある訳はなく、当院の指導不足であった他ない。
 
・治療前の飲酒に気がつかなかった。正直、コップ一杯のビール程度なら差し支えないとは思うのだ   が、万が一を考えればお断りしておくべきだった。微量なりともアルコールの入った身体に対し、迷走  神経付近、 椎骨動脈や内頸動脈付近への刺鍼は、時としてお酒が一気に回り始める要因ともなる。
 
最終的には良い状態で終わらせる事が出来たが、今回のような軽微な症状であったとしても
場合によっては重大な結果を生む事もある。
 
治療家が考える事は、治療中のリスクのみではなく、
治療前後にまで強く及ぶ事を再認識させて頂いた症例であった。
 
 
 
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