藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

中枢神経系症状と治療時の生理反応の臨床応用とリスク/現場から見えた異なる回復手段の可能性

~頸部交感神経節近傍の処置に伴うリバウンドと治療応用~

中枢神経に酸素濃度の高い血液を非日常的且つ持続的に送り続ける事が各種罹患細胞の栄養へ繋がり、患者にとっては症状の改善自覚へと繋がる。只、脳内血流量を感知又は左右する頸部交感神経節(近傍)への処置に伴う段階的な生理的派生の流れを無視(及び未伝達)して行った場合、治療を受けると具合が悪くなるとの評価しか得られず、治療は中断される。最も特異的な状態を呈する症例が、中長期的に向精神薬や鎮痛薬(主に各種ベンゾ系や抗うつ薬、又、プレガバリンやトラマドール等)を服薬している例が挙げられる。リバウンドの説明を行っても1~2回での治療中断は少なくない事から、中断理由がリバウンドなのか、又は別要因なのかは実際に教えてもらわない事には分からないが、知る範囲内ではリバウンドの発生が1つの理由になると推測される。

他、1~2回の治療で何でも治ると思って来る患者も少なくない為、根本的な部分でのミスマッチ例も多数あるだろう。これらリバウンドや、中枢神経系への栄養に伴う症状改善の時間差を掌握する事の術者側のメリットは大きく、それは結果的に患者に対しての各種メリットにも繋がる。血管の収縮や拡張を促す生理的物質は幾つもあるが、この度は脳内血管に於ける意図的な刺激に伴う収縮及び拡張理由と治療応用の可能性を改めて考える。頸部交感神経節への処置に伴う脳底動脈より上位の脳内血管の拡張理由はCO2濃度に左右され、意図的に刺激を加えた際の作用時間が拡張期間に依存するものと思われる。

治療を標榜する場合、血管拡張=良、血管収縮=悪と捉えられている節はあるが、この是非を今一度考える必要性がある。例えば、治療により非日常的な血管拡張が発生しても、酸素分圧保持の機能が生理的に働き、O2濃度が高まり、血管は収縮される。各種細胞の栄養はCO2ではなくO2であり、O2が血管収縮を担う。収縮度に比例して血液の酸素濃度が低くなるのではなく、O2濃度が血管収縮に比例する。その為、大脳や小脳、脳幹の類の栄養を意図的に求む場合、拡張という表現のみでは少々説明が足りないのかもしれない。

如何にO2濃度を高め続けるかの観点で見れば、拡張のみで表現し切るには至らない。機械的刺激を頸部交感神経節に加えた場合、一時的に収縮し、以後拡張期を迎える。但し、拡張期も延々と続けば身体にとって負担である為、非日常的な拡張を抑える為、濃度の高い、又は持続性の高いO2を取り込み続け、平衡を保つ、又は保とうとする働きが生まれるのは自然である。この最後述の段階が、治療に於ける栄養期になると推測される。非日常的なCO2濃度を一時的に高め、栄養期への移行を繰り返す事で、細胞へ栄養が行き渡り、機能し、互いが適切にフィードバックしあい、その結果として患者にとっては症状改善自覚へと繋がっていくものと推測される。

以下に1例を挙げる

age30 sexf(治療回数1回で継続治療停止の指示を出し終了)

幼少より家庭不和の環境で育つ。学校ではイジメの対象となり、中学生の頃、対人への恐怖感とパニック発作的症状が発生した為、近医受診。当初は数種の向精神薬処方だったが、家庭不和やイジメが関与し続けた結果か、又は薬剤耐性の獲得の結果かは判断が付かないが、数年を経て1日150錠程の向精神薬を服薬(下剤も数種あったと記憶)。何の理由と目的かは不明だが当院受療。また、診断名や症候群名を並べられたのみで具体的な症状は聞けず。とにかく具合が悪く、何処を調べても異常がないのだけはヒアリング出来たが情報としては足りない。その為、挙げられた診断名や症候群名を下に、症状継続の理由と原因部位の説明、及び治療後のリバウンドの説明を行い治療。治療直後から、日中では感じた事のない程の眠気が襲う。

※家族からの後日談

帰りの車中で今迄起きた事のない程の不安感と動悸、過呼吸が生じ(治療から約30分経過後)、軽度に移行するも約2~3日継続。4~5日後、自身の今の症状や、今日起きた出来事を机に向かって日記に書き留めるようになる。今迄は机に向かう、文字を書く、症状を具体的に表現する事は出来なかったと聞く。

※患者本人からの後日談

針治療後、何故かアルコールの多量摂取や過量服薬をしたい観念が続くと訴えがあった事から、現症の改善や悪化云々よりも、針治療継続により、実際のアルコール摂取や過量服薬した事で生じるデメリットが大きいと判断し、治療を停止。

以下考察

上記症例のみではないが、治療後に似たような状態を呈する患者は多かれ少なかれ存在する。それこそパニック発作的な症状、予期不安的な状態を抱えている例では、治療初期に強い精神症状が表現され、それに随伴する身体症状も現れ易い。呼吸の中枢は脳幹(延髄)に受容体が存在し、各種呼吸障害が派生する理由は当該部位の損傷によるものと推測されている。例えば、今件のそもそもの発症理由は、家庭不和やイジメによる多大な継続的精神的負担(身体的負担もあったかもしれない)、及び当時のX-rayにより、多少の頸椎後弯が認められていた為、頚髄伸長による継続的なテンションから、延髄の易負担も関与していた(る)可能性もある。

その後の向精神薬の中長期的な服薬による常用量離脱より、脱抑制が生じている事も十分に考えられるが、本人は向精神薬のリスクを既知としていなかった為(既知、未知関係なく、150錠/1dayの問題をどうするかだが)、あくまで対人恐怖とパニック障害と世間一般で言われている、過去に得た名称の説明のみで当時は終えている(150錠まで増えたのも、都度の増量で起きた常用量離脱を更なる増量でフィルタリングしてきたのだろう)。治療後、少々時間差を経て発生するリバウンド現象は、延髄の呼吸受容体で例を挙げるとイメージは湧き易い。過呼吸の発生理由は、酸素の取り込み過ぎ、体内の酸素濃度が要求量より高過ぎる事で起きる生体反応と推測されている。

また、恐らく治療直後に起きた極端な眠気は、脳内のCO2濃度が高まった結果だろう。その後、過呼吸などが生じ、数日を経て、今迄行えなかった事が行えるようになる(机に向かう、日記を付ける作業など)事を考えると、上記の推測を段階を以てイメージし易い。仮に一過性のリバウンドだとしても、患者には治療後に生じた身体症状や精神症状は極めてネガティブな出来事だが、確と中枢神経へ作用が及んでいる証拠になり、特に向精神薬に伴う脱抑制状態を基礎と持つ身体状態に於いて、又、延髄の呼吸受容体を由来とする症状を抱えている場合、治療後のリバウンドの説明の1つとし、治療後に変化するO2とCO2の時系列に沿う、血管の収縮及び拡張理由は理解が早いのではないかと思う。

~ベンゾ離脱症例による、治療直後の変化自覚症状群と、変化無自覚症状群から、根本的な病態の差異を考える~

針治療の視点では、中枢神経系症状の各論的考察は意味がない事を度々書いている。仮に大脳、小脳、脳幹の類の何処に向精神薬や他の神経毒で損傷を負っても、治療内容は頸部交感神経節の処置であり、結果的に脳内全域に対して作用が及び、選択的に損傷部位に栄養を与える事が不可能である事を理由とする。この点がノーマンズランドである中枢神経系症状の考察及び機能考察の限界であると同時に、下記も全くの推測でしかない事も意味する。それでも尚、現場では治療直後から変化自覚を得られる症状群と、治療から時間を経て変化自覚を得られる症状群に分かれてくる。それは何故なのかを考察する事も大切なのではないかと思う。

ベンゾは脊髄にも反応を及ぼす事より、逆転現象が生じた際の症状群は、整形外科的症状群と類似したり、関節リウマチや多発性硬化症等の自己免疫疾患の症状群と類似する為、程度の差こそあれ、各当該科で相応の治療は既に受けており、その多くはNSAIDsやステロイド、またプレガバリン、トラマドール等のオピオイド系鎮痛剤に発展していくのは誰しも通る道かもしれない。また、脳血管障害後に起きる視床痛の類にも似た状態に陥る例も多いのが特徴かもしれない。

その都度都度の弊害はさて置き、追加で処方されるベンゾ及びそれ以外の向精神薬の類が全く効かないという訳でもない為、早期改善自覚を得たい場合は、どの道この道、望んでいなくても薬漬けの状況から抜け出せなくなる。只、これを責めてもどうしようもない。大切な事は、睡眠薬睡眠導入剤抗不安薬精神安定剤等と称される、ベンゾジアゼピンを服薬し、弊害を生じた場合、その生き地獄から如何に安全な脱出を目指すかを考えなければならない。

sex f age 35 

仕事のストレスにより中途覚醒が目立ち始め近医受診。力価的には当初弱いベンゾ及び漢方薬を処方。約1か月半は中途覚醒は解消されていたが、再燃し始めた為に再受診。高力価のベンゾに切り替えとなるも、約1か月半経過後、再度再燃し始めた為に再受診。前回処方された高力価のベンゾはそのまま、量は3倍となる。更に1か月経過後、またも再燃し始めた為に再受診。その際、以後の服薬量は自身で調整するよう指示を受け、判断不能となり結果的に一気断薬。

・患者背景

ベンゾ服薬により睡眠の問題に対しての症状改善自覚を得るも、薬剤耐性を獲得した事で症状が再燃し始め、増量が繰り返された。以後も度々効果自覚を得られなくなった事を訴えた事で、キリがなくなり「薬を止めた」事で発生した例。当時、当該患者はベンゾ含む向精神薬の類を急激に止めてしまうと離脱症状が出る事を既知とせず、また都合の悪い事に離脱症状を身体表現性障害と、うつ病と診断した事が更なる悪循環を招いた結果であるが、このような状況に陥る例は全く珍しくないと思われる。

・断薬数日後より以下の症状が惹起される

四肢抹消を中心とした全身性の振戦 眼瞼痙攣 肩頸部及び腰部に激痛と硬直感 背部に違和感 下肢脱力により歩行不能 膝関節及び足関節に強い違和感 頸部後面及び胸部前面に熱感 急激な体重減少 味覚及び嗅覚障害 副鼻腔炎様症状 眼痛 羞明 眉間痛 一睡も出来なくなる 唾液分泌過多 毛髪、髭、爪が伸びない 皮膚のたるみ及びくすみ 不安感 焦燥感、うつ状態、現実喪失感 上記症状が惹起された為、再受診するも身体表現性障害、うつ病等と診断。得られた診断名が症状の解決に繋がる事もなく当院(藤原)受療となる。

・治療内容

頸部交感神経節及び頸椎椎間孔近傍及び、腰部交感神経節及び腰椎椎間孔近傍(頸部は超音波照射含む)

・治療直後の患者自身の症状変化自覚

四肢抹消の振戦や眼瞼痙攣は、アイソメトリックで増強される事を以前より自覚していた為、治療直後は当該運動を再現してもらうも症状の増強が認められず。肩頸部及び腰部の硬直感、膝関節及び足関節の強い違和感、下肢脱力感も、治療直後は症状自覚が認められず。他症状は変化なし、又は治療時の時間帯のものか、症状自覚なし。

・3~4か月経過しての全身状態の所感

上記初診時の治療直後の振戦、筋痛性疼痛や硬直感、下肢脱力や違和感等々の諸症状は、次診以降都度ヒアリングするも、症状は再燃傾向ではあるが、以前程のVAS値ではない模様。他症状に関しては、精神症状である不安感、焦燥感、うつ状態に著しい変化は未だ見られないが、喪失感は改善傾向となる。また、代謝異常と思われる皮膚や毛髪の類の症状は改善傾向、食欲を取り戻した結果か、体重は約3か月を経て従来に戻る。個人的な所見だが、交感神経症状の持続=高濃度コルチゾル分泌示唆から生じる症状群は、ベンゾ離脱による2次的症状群と推測され、どの患者であったとしても、治療反応性は良い。また、頸部後面及び胸部前面の熱感は気が付いたら生じていない。

・治療直後の症状変化自覚が得られやすい症状群と、治療直後の症状変化自覚が得られ難い症状群の考察

手指の振戦を主とした全身性の振戦、筋痛性疼痛や筋硬直、下肢脱力や違和感の類は、ベンゾ離脱では好発例となり、当該患者に限らず多く見受けられ、治療直後から症状の改善自覚が得られる傾向も多いが、直後結果が認められる諸症状に関しては、頸部交感神経節処置や腰部交感神経節処置に伴う脳内や脊髄細胞膜に存在するGABA受容体等の即時的回復ではないと見ている。では何故、機能及び器質的な状態の改善が得られる事はないと思う程の早期タイミングで症状改善自覚が得られるかの仮説を立てる必要が生まれる。

時間経過により弱再燃傾向ではあるが、治療直後に即時的に結果が得られる、又は直後結果が得られやすい症状群に関しては、未だGABAの自己分泌能や受容体の機能又は器質性の状況は未回復であるものの、特に脊髄細胞膜由来と推測される症状群は、脊髄関連の小動脈及び近位動脈が椎間孔近位を走行している事より、椎間孔近傍処置による血管拡張によって、GABA分泌能の低迷及び受容体の不具合により惹起されている交感神経系の異常亢進に伴う血管収縮(神経内部を走行する血管含む)が解除された為、各脊椎高位から頭部及び顔面部、及び四肢抹消に走行している末梢神経系症状である、筋痛性疼痛や筋硬直、下肢脱力や違和感が軽減されるものと考える事も出来る。

症状的に類似するジスキネジーやジストニー、及び視認不可ではあるがアカシジアやレストレスレッグスシンドロームは治療直後の結果を得られた経験がない為、左記症状群に関しては、既存の病態定義でもある大脳基底核由来としての症状群である事が区別出来る事になる。治療も累積される事で、都度の治療後、弱再燃傾向ではあるがVAS値減少も認められる事より、基礎的な身体状態(向精神薬由来症状の場合、自己分泌能や受容体の事を指す)の改善も認められていると推測されるが、あくまで治療直後の改善自覚は上記理由によるものと思われる。

・類似症状を抱える他患者含めた所感

ベンゾそのものは脳及び脊髄に反応を及ぼす為、離脱を生じた際の弊害は、脳及び脊髄由来の症状を出すと推測するのは容易い。勿論、視床脊髄路等の下行性の経路を踏まえて考えれば、幸いにも脊髄に損傷を受けなくても、上記諸症状は惹起される可能性も考えられるが、これらの根拠を知る事は、現行の検査機器を以てしては不可能となる。また、この度は1人の人物から見た治療反応より考察を書いたが、上記症状を抱えるベンゾ離脱の患者は全く珍しくないものと思われる。只、針治療という既存イメージが、身体症状に効果がある認識を持っての来院と思われる為、患者層にも偏りが見られているのかもしれない。

その為、ベンゾ離脱を抱えた場合に惹起される身体症状と精神症状の割り合いは比較出来るものではないが、特に脊髄細胞膜由来と推測される筋硬直の類や、関連する頸神経損傷から派生した頭部及び顔面部(脳幹由来の顔面神経や三叉神経の場合はタイムラグがある印象を受けるが)の筋硬直の反応性は悪くない印象を受け、椎間孔狭窄等に伴う後根神経節由来や、椎間孔近傍の軟部組織の柔軟性欠如に伴う各当該脊椎高位の持続的な末梢神経系の牽引及び摩擦等に伴う損傷、及び骨性インピンジ(椎間孔狭窄による物理的なダメージ)による損傷に類似する、整形外科的な上肢及び下肢症状群との治療反応性と類似する印象を受ける。

・患者背景からの所感

患者にとっては「仕事のストレスで寝ても目が覚めるから、病院に行って貰った睡眠薬を飲むも、効かなくなったから止めた」だけで、一見見慣れた風景だが、薬剤耐性や離脱の概念は「知らない」のは当たり前だと思う他、離脱が惹起された後も新たに病名が下されていく悪い循環に陥るのも、当該患者に限らず今に始まった話でもない。また、当該患者に関しては以後処方された薬物を服薬せずに踏みとどまったが、ベンゾ離脱の急性症状や慢性症状は、統合失調症の陽性症状や陰性症状に極めて類似する為、大概が以後は抗精神病薬の処方が始まる。勿論、この段階を経て統合失調症と診断される例も少なくないだろう。これらの事情を回避する為には初めから飲まない事だが、似たような状況に陥っている人間は数多いと思われる。

~フルマゼニルとエンドゼピンから回復の可能性を探る~

他国の多くは依存性や有害性、危険性等の観点からベンゾは2~4週間迄と期限が定められているが、期限が存在しない日本のベンゾ事情は、10年や15年の長期服薬者も多く、常用量離脱の概念の既知未知問わず、薬剤耐性は高確率で起きていると思われ、日本特有の問題も数多いと思われる。現実的にはベンゾ離脱を既知としていれば、頸部硬直や頸部疼痛はベンゾ離脱であると捉え、未知であれば強い肩こり首こりはストレスであると捉える/考える程度で、表現内容が問題なのではなく、服薬している限り同様の反応は誰にでも共通で起きている可能性が問題となる。その為、あくまで以下はベンゾを長く飲んでいる全ての人間に共通した話になる。

ベンゾ結合を外す薬は数多い。有名なのはキノロン系の抗生物質NSAIDsとなり、どちらも極めて身近な薬となる。例えば風邪や何らかの観血的な処置後の感染予防などで抗生物質を出されて飲んでも離脱症状が増強される懸念が生まれるし、肩がこるからとNSAIDsを飲むなり貼るなりしても離脱症状が増強される場合もある。医療的な目的として、胃カメラ全身麻酔の際にベンゾで鎮静させた際の早期覚醒目的で、ベンゾ結合を外す事を目的とした薬物も古くからある。それがベンゾジアゼピン拮抗薬(フルマゼニル/アネキセート)であるが、意図的にベンゾ結合を外し、鎮静状態の人間を覚醒させる目的の用いられ方をされる。

患者を通じて聞いた話だが、ベンゾ拮抗薬を用いて、ベンゾ断薬後の患者に限り、離脱症状の回復を図る取り組みが海外では行われているようだ(継続的に服薬中/減薬中の場合はベンゾ離脱が増強される為(頭蓋内圧亢進が起きる場合もあるとの指摘もある)不適切である)。では、フルマゼニルはベンゾ結合を外すだけの薬物かと言えば、実はそうでもないらしい。フルマゼニルは内因性ベンゾジアゼピン様物質であるエンドゼピンにも作用を及ぼしている文献が幾つか見受けられる。

ベンゾ離脱の概念を簡便に述べると、自己分泌能の低迷や受容体側のダメージ等により、ベンゾ反応部位である脳及び脊髄の重篤且つ継続的な中枢神経症状や自律神経症状が溢れ続ける事態を示す。その代償/補完目的として、フルマゼニルでエンドゼピンを賦活化させる事で、症状の軽減を図る事が出来ると考える事も出来る。しかし、断薬後の離脱症状に苦しむ患者にフルマゼニルを用いて、只でさえ自己分泌能が低迷していると思われる中で更にベンゾ結合を外す行為は、仮にエンドゼピンに作用しようとも荒療治としか思えないが、色々と手段はあるのだろう。

「ベンゾ服薬歴1年のキノロン系抗生剤投与に伴う離脱症状発症」

このような症例も過去受療機関で誰も知らない教えない認めてくれないから患者に不幸が訪れる。年齢は伏せてはいるが比較的高齢であるこの患者は、早期タイミングで脱する事が出来たから良かったものの、ズルズルと引き伸ばされていれば、単なるボケ老人扱いで施設行きである。下記にも記載のある通り、向精神薬由来と思しき新鮮例は極めて珍しい。そして、陳旧例患者が大半であり、数ヶ月~数年と治療期間が要する可能性の高い患者方には申し訳ない話だが、新鮮例は回復速度も著しく早い。治療回数は2回で略治となった。如何なる傷病名を抱えていたとしても、そして如何なる処方理由及び服薬理由であれ、耐性が獲得されていると思しき時期のベンゾ服薬者が、キノロン系抗生剤を服薬すると離脱症状を発症する話は有名で、その発症間もない症例を参考まで。

age 伏せ sex 伏せ 服薬歴 ベンゾ/1年

1ヶ月程前に内科的疾患を煩い外来で通院治療。その際にキノロン系抗生剤を投与。内科的疾患に関わる諸症状は点滴及び抗生剤投与で軽快したものの、約3週間後より 右上肢及び右下肢の感覚鈍麻と痺れ 右上肢が挙上し難い(脱力感) 舌の痺れ 味覚脱失 嗅覚過敏 不眠 食欲減退 不安 離人感etc…を発症。これらの諸症状より患者は脳卒中を疑い救急を受診。検査の結果陰性。原因不明と告げられる。また、内科受診、及び慢性的に患っていた他疾患も有していた事より、こちらの疾患から発生しているのものと推測し他科へも受診。

各々の科では身体的所見が乏しい理由により、精神的な問題でしょうとされ帰される。当院(藤原)受診は上記症状発症より約1週間。但し、治療中の会話より抗生剤投与後から「飲めば飲むほど具合が悪くなる」とも言っていた事から、正確には抗生剤投与間もなくより身体及び精神的違和感を覚え始めていたのかもしれない。あくまで上記症状に至る迄が3週間と言う見方が良いのかもしれない。当院受診理由は、数ヶ月前に別件で整形領域の神経痛症状により、器質的異常が乏しい理由でNSAIDs程度で濁されていた状態を、1~2度の治療で仕事復帰出来た過去があったからと告げられる。

向精神薬症例を取り扱っていると、離脱症状発症から何をやっても奏功しないまま数年と言う時間を経て、極めて厳しい状態にまで追いやられてから訪れる患者が大半だが、今件のように明確なエピソードを持ち、離脱症状発症から僅か1週間で当院を訪れた例は珍しい。元々薬剤過敏もあるらしく、過去にも何かの薬物で1度具合が悪くなった経験があるようで、この度のベンゾ+キノロン系にも過敏に発症したものと思われる。理由は分からないが、1度薬剤に対して過敏反応を起こした過去を持つ場合、その後も何かしかの薬物を服薬する際には注意したほうが良い印象を持つのは、この患者に限った話ではない。治療上は左右頚椎椎間孔近傍及び左右頚椎交感神経節への処置。度々書いているが、交感神経節は人によって配置箇所と数が異なる場合があり、杓子定規に処置していては結果は付いて来ない為、確実性と再現性を見込み、全頚椎高位へ処置をしている。

治療直後より右上下肢の諸症状、舌の痺れ等々は軽快。腹が減ったと帰る。他症状は日常生活との関わりを持って評価してもらう事とし、今後もフォローアップ予定。再度書くと、離脱症状発症から極短期且つ明確なエピソードを持つ新鮮例は個人的にも珍しい。患者も前回の神経痛様症状の治療結果を過去に持つ事から、幸いにも私の話には信頼を寄せて頂いている。これらの理由もあり、回復迄は簡単に漕ぎ着ける事は出来ると思う。何より今件に限らず、この手の薬剤性由来は、医師が否定した旨の話を患者に告げると、患者はその話を先ずは信用し、精神的な問題であると鵜呑みし、その結果、抜け出せない程の向精神薬を投与されるケースが大半となり、それが現場での混乱を生み、そして患者の将来を途絶えさせる。

そもそも、ベンゾ+キノロンの話は他医科では出ていなかったようだから既知としていなかった可能性もある。様々な事情や感情が絡み合って回復する患者、脱落する患者もいるのが向精神薬症例の特徴かもしれないが、今回は脱落理由となる障壁は既にない。累積治療に伴う新鮮例と陳旧例の治療反応性の差異も含め、今後も注視していきたいところ。

~発熱療法から回復の可能性を探る~

発熱療法は意図的にマラリアチフスに感染させ、持続的な高熱を発生させて行う治療手段ですが、現代では全く同じ事を行うには倫理的な問題で難しいと思います。針治療で生じる生理的反応を鑑みれば、当該罹患部位に対して選択的及び局所的、又は全般的に熱産生及び類似反応を結果的に引き起こす事になるかもしれませんが、何れにせよ治療手段としての拡散性は極めて悪いのです。かと言って、そこらにいるウイルスや細菌を拡散させる事は出来ません。インフルエンザウイルスならばら撒かれているようですが効果の程は分かりません。

話は戻し、どの患者も初診に限っての(又は目立つ)現象で、何故治療後に高熱が引き起こされたのかも不明です。只、治療後、数日間に渡り高熱が出た後、身体症状及び精神症状が著しく改善した症例が幾つかあり(発熱自体が症状改善、寄与したかは不明だが、高熱を起こした患者ほど、改善自覚幅は大きい印象を持つ)、発熱療法の可能性を感じます。

※針治療後2~3日内に別件で血液検査をしたところ、CRPが普段より高かった事を伺う機会も度々あり、事実的な反応は生まれているのですが(刺傷だから当たり前と言えば当たり前ですが…)、何故高熱が引き起こされる症例が時に現れるのかは未だ不明です

※報告例のみの為、実際にはもう少しいるかもしれません。「治療後に風邪を引いたみたいで熱を出して…」とされる方も時に見受けられ、実際には風邪由来ではなく治療由来の可能性もあります。因果を考えればキリはありませんが…

※ポイントは3日(又は2日)程度の期間の発熱かもしれません。刺傷の修復に伴う炎症期~治癒期は約72時間と推測されており、時系列的には合致します。以下症例は向精神薬由来の中枢神経症状の類ですが、末梢神経症状でも同様の経過を示す例が最も多く、発熱の有無問わず、初め2~3日内は症状が不安定に推移し、その期間を過ぎた後に軽快していく例が最も多い印象を受けます

※以下症例はプライバシーの配慮より、5症例を2つにまとめたものです。発熱療法に関しては最下段で紹介しています

age 15 sex m

10歳に至る前、多動及び不注意を理由に医療機関受診を促され発達障害と診断。中枢神経刺激薬及びベンゾ系を数種処方。服薬するも全く効果が得られない事を訴えたところ、異なる向精神薬を処方された当日、悪性症候群様症状が惹起された事を契機に一気断薬。その後も多彩な中枢神経系症状が継続した為、医療機関に出向くも異常なし。どんな症状を訴えても「発達障害ですから」との返答により継続的に処方されるも、向精神薬問わず薬剤等の化学物質全般に過敏反応を示し始め、薬を全く飲めなくなり4~5年経過後、当院受療。治療後翌日、38度台の高熱が3日経過した後、凡ゆる症状の著しい改善自覚を得る。(発熱による症状改善自覚は一過性だった為、現在も経過観察中)

age 30 sex f

10代後半より服薬契機は不明だが、ベンゾ系や抗うつ薬等の服薬と休薬を繰り返した結果、一切の薬物を受け付けない状態となる。具合が上向かない事を契機に受療。初回治療後の翌日より38度台の発熱が3日経過。この3日間、精神状態が極めて悪くなり発作的に号泣し続ける。だが、熱が引くと同時に凡ゆる症状の改善自覚を得る。(発熱による症状改善自覚は一過性だった為、現在も経過観察中)

人為的に人体に熱を出させることによって病気を治療する方法。 J.ワーグナー・フォン・ヤウレッグが 1917年に創始した,中枢神経系の梅毒性疾患に対する特異療法がそのおもなもの。三日熱マラリアチフスワクチンの接種によって高熱を発生させ,治療する。梅毒スピロヘータが高熱に弱いことから発想したものであるが,現在ではむしろ,その衝撃の効果 (非特異効果) が重視されてきている。 神経梅毒,とくに進行麻痺の治療法の一つ。19世紀後半,腸チフスにかかって発熱した精神病者の精神症状が消失したとの報告から,発熱の精神病治療への応用が考えられるようになった。

1917年にヤウレックJulius Wagner Jauregg(1857‐1940)によって,梅毒性精神病の進行麻痺に対する三日熱マラリア原虫接種による発熱療法(マラリア療法)が確立した。ヤウレックはこれによって1927年度のノーベル生理・医学賞を受けた。

向精神薬由来の副作用や離脱症状に於ける大脳基底核由来症状とβブロッカーの効果と薬物耐性事情~

D2受容体遮断薬やメジャー系を単独または複合的に用いている例は多い。主に自閉症スペクトラム双極性障害統合失調症と診断されている群が割合いとして多く見受けられるが、診断名や病態定義や今の症状が何であれ、ドーパミンを選択的に弄る事になる為、大脳基底核由来の諸症状が惹起されるケースは少なくない。主にアカシジアやレストレスレッグスシンドロームが惹起されたケースを以て、応用的にβブロッカー/インデラルを服薬する。

昨今では「あがり症」の改善目的で、若年層が個人的にネットで購入して用いる例も多いようだが、世間一般で言う大脳基底核由来の副作用や離脱症状が出た際、交感神経遮断薬となるβブロッカーを用いる患者も多く、確か厚労省の副作用対策でもメジャー系で生じたアカシジアにβブロッカーを応用し、症状が改善したとする症例が書かれていたと記憶している。

只、私が知る範囲では、βブロッカーで症状が軽減された例はあるが、100%の割合で2~3週間程しか効果自覚を得られず、結局休薬するか増量を繰り返していく例しか知らず、向精神薬由来症状に対し、長期効果をβブロッカーに期待する事は困難なのかもしれない。

※大抵どの症例話に対しても言えるが、薬で起きた事情を薬で潰す症例話は殆ど長期効果が期待出来ず、いずれ身体~精神へ無理が訪れる。

~まとめ 人間は薬物に勝てない~

人間は薬物に負ける。負けなければ薬物としての存在意義はない。負けを認めなければ前に進めない事柄は数多い。目先の症状を消そうと焦る程、ドツボにハマる人間が後を絶たないのは、悪足掻きをしてしまう感情に由来する。負けを認めた上で、自身の備える修復作用に期待を込めるしか回復への手立てはないものと思う。辛いし悔しいが、現実を受け止め諦めずに頑張るしかない。

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イメージ 1  ~針治療から病態定義の見直しを~