藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

神経変性疾患との向き合い方を考える

中枢神経の傷害理由は多岐に及び、外傷や感染症、腫瘍や神経毒等、数限りなく考えられます。また、傷害理由問わず諸々の以後の状態と推測される、脱髄や軸索変性等の器質的な神経変性が生じた結果論での症状表現も異なります。只、受傷部位で症状内容は異なる為、それに応じた傷病名が宛がわれる事になりますが、「そこをそのように傷めればそのような症状が出る」だけの事で、傷病名に固執する必要はないのかもしれません。

脳は解剖的にも選択的な加療が不可能な部位の為、選択的に責任高位を評価する、治療的診断の出来る脊椎変性疾患等の末梢神経症状とは異なり、不利な側面があります。しかし、不利という表現は罹患部位の判別が濁る術者側の都合でしかなく、脳全体の栄養となる治療手段は、罹患部位問わず回復を望める解剖的要素を人間は持っていると前向きに捉える事も出来ます。

数々の神経変性疾患の病態仮説には、多くの共通点があります。それは何れも自己の神経伝達物質が原因となり、細胞破壊に至っている説の存在です。傷めた部位により症状が変われば病名も変わるかもしれませんが、それ自体は大した意味を持ちません。どうなるかは未知なものの、それを言えば風邪すらも未だ「治療法なし」です。治すのは自身の機能的側面に大きく依存される様々な病気に、「ある」とか「ない」とかの話では何も前に進みません。

また、形態異常を認める条件に、画像所見による異常の有無も前提となりますが、例えば今のMRIは、0.1mmまでの異常しか探せません。今後は更に小さな範囲まで撮影出来るようになれば、今とは異なる解釈も出来るようになるのかもしれません。形態異常とは器質性とも表現されますが、対を成す表現の機能性も、何れは器質性と呼ばれるかもしれません。只残念ながら、器質性が認められたからと、症状とは関係ないかもしれませんし、関係していても、取り除く技術が部位により及ばない場合もあります。

原因部位や過程、受傷速度により、症状の移り変わりはあるかもしれませんが、転帰の生理は、その起因と過程が異なるだけで、症状が何処かで完成してくれるケースも、症状の完成が存在しないケースも同じと推測されます。そのように考えると、どのような病気なら治り、治らないという表面的な判断は難しく、発症の起因や器質性の所見による症状との関連の有無を重視する理由も見当たらず、また、分かろうとするほど分からないに近付く人間の身体とは、裏を返せば可能性に溢れているものです。


1)進行性の上位及び下位運動ニューロン障害で発現する解離性小手筋萎縮から見る全体像

何れも具体的な病名を挙げないのは配慮の側面もありますが、病名に振り回されない強い気持ちと、希望を持つ大切さもある為です。上位も下位も、上位及び下位の運動ニューロン障害も、様々な理由で起こるものの、何故その一部は、可逆的とならず、せめてもの進行停止もなく、なりふり構わず進行するかが問題であり、その解決に向けては多くの考察が入れられています。

仮説が幾つも存在する今日に、諦めてしまうか、可能性があると希望を持つかはそれぞれですが、後者の面持ちで過ごしたほうが豊かな気持ちでいられます。また、情報の大半は「治療法なし」ですが、現行の薬物治療や類似手段を寄せ集めた上での結果かもしれません。

亜型は数知れず在るものの、上肢型、下肢型、球麻痺型と分類される進行性の上位及び下位運動ニューロン障害は、球麻痺型を除き、易発症性の運動異常で想像をするのは、頚椎症や腰椎症等の脊椎変性疾患や、靭帯や腱の肥厚や硬化等による脈管系の圧迫から遠位の諸症状と推測されます。

神経原性疾患の多くは、四肢遠位から症状自覚をする他、多髄節、連続性に広範的な変性による障害とした場合も、当初の臨床像は日常生活の易負担部位とオーバーラップする事が、整形領域疾患と結び付く理由でしょう。

末梢神経性や頚椎症性筋萎縮、髄節性では説明に矛盾が起きる解離性小手筋萎縮の起因には幾つかの病態仮説が存在し、何れも短母指外転筋や第一背側骨間筋の使用頻度の高さ、即ち代謝要求の高さが理由とされ、巧緻運動時の上位運動ニューロングルタミン酸の高度な暴露による神経毒性が挙げられています。

典型例は手だけで診断が可能と言われる程の、解離性小手筋委縮とされる特異的な状態は、一部の感染症や下位運動ニューロン障害でも稀に認められる為、この限りではありませんが、当該病態の部分的な筋萎縮を1つ取り上げても、全体像の意味が込められているかもしれません。


2)進行性の上位及び下位運動ニューロン障害(上肢型)の治療経過

上肢型は、手指の巧緻運動や上肢の運動異常から違和感を覚え、経時的に視認可能な筋萎縮や脱力感、筋力低下が目立つ一方、下肢には痙性が見られ、歩容に異常を来します。

1枚目の写真は、手指や上肢の運動異常を自覚した時期と同じくし、胡坐の姿勢を取ると、大腿筋群に強い牽引性の自覚と、股関節外転のRange of motion(以下ROM)が制限された事に気が付いた当時を再現して頂いたものです。※1枚目の写真は、2枚目の写真の撮影時に、当時のROMを再現して頂いたものです

2枚目の写真は、初診から10日経過した後の最大ROMです。1枚目と比較すれば拡大し、痙性の改善と判断出来ます。歩容は、平地では評価が付き難いですが、階段昇降やズボン着脱時の股関節屈曲のROMの改善、接地側の平衡や維持が認められ、当初の片足テストが1秒にも満たなかった状態とは異なります。

3枚目、4枚目の写真は、左上半身の僧帽筋や肩甲骨筋群、広背筋や三角筋上腕三頭筋上腕二頭筋、前胸筋群の筋萎縮が確認出来ます。肩甲上腕関節のROMは前方挙上90度、外転90度の他、左上肢を上から押さえる等の抵抗には耐えられない状態で、左上肢の問題は初診前と変わりません。

また、ROMは日差が見られ、前方挙上120度まで認められたタイミングもあります。握力は左側が若干弱いものの、日常生活で十分耐えられる力を有し、右側は治療開始前と比較すると寧ろ強くなっている他、左手指を中心とした、ボタンの掛け締め等の巧緻運動の改善自覚を得ています。

5枚目の写真は、左短母指外転筋の萎縮の一方、左小手筋が維持されており、手内筋の髄節となるC8~Th1由来とは異なる印象を受けます。また、初診時は全身にファシクレーションを自覚していましたが、日数の経過で左第一背側骨間筋に限局している他、意図的な筋収縮を行わない限り、出現しない模様です。こちらの撮影から約4週後には、当該部位の筋量の回復とファシクレーションが無症候となり、左第一指の巧緻運動の顕著な改善自覚も得ています。また時期を追い、左上腕二頭筋の肥大の自覚と、体重が微増し始めています。

年月を経て、初めて全体評価が出来る症例かもしれませんが、敢えて記憶も新鮮な短期評価を頂く中での印象とし、難攻不落の運動ニューロン疾患にも治療応答が見られ、進行性が示唆される病態へも、希望を持つ大切さが生まれます。
     
                         
  
  
     

3)進行性の錐体路障害、上位運動ニューロン障害への治療経過

右下肢を優位とする痙性麻痺の進行で、経年により座位姿勢での大腿挙上運動が不可能(MMT1~2)となったが、治療開始から約2〜3週の間で、大腿挙上運動が可能となり、維持したまま推移している例。※0:30から音声処理をしています


                         
4)進行性の錐体路障害、上位運動ニューロン障害への治療経過

1枚目。初診から3週以降。右下肢を優位とする痙性と内反尖足の顕著な改善に伴い、重力に抗していない座位等では、足底全体を安定的に床に着けていられるようになる。

2枚目。状態の悪い時を再現して頂いたもの。右足の内反尖足が目立つ他、右下肢の各関節が固定された、棒のような痙性により、フットレストに乗せられない時もあった。



5)進行性の錐体路障害、上位運動ニューロン障害への治療経過

https://www.facebook.com/kouta.fujiwara1/posts/2472955306129054 と同じ方です。右下肢を優位とした痙性と内反尖足により、左足に引っ掛かる、左足背を踏む等で転倒を余儀なくされていたが、痙性の改善により、転倒のリスクがなくなる。只、座位等の重力に抗していない状態と比較すると、立位や歩行、段差の昇降時に多少の内反尖足がまだ見られる。※音声処理をしています



6)精神ストレスと下位運動ニューロン障害

進化の過程かどうかは定かではありませんが、脊髄から抹消に分枝する末梢神経系の配置は上手く出来ています。前角(腹側)から運動神経、側角から自律神経、後角(背側)から知覚神経です。そして頸部と腰部は生理的に前彎を保ち、各神経系のテンションを適切に保っています。

日常生活動作内で不適切になった場合の多くは、先ず痛みを感じます。それは後角に知覚神経が存在してくれるからです。非生理的な彎曲を日常で示せば、各神経系のテンションも異常となってシグナルを送りますが、先ずは知覚神経が異常を知らせてくれます。その時、仮に後角に運動神経が存在した場合、運動機能の退廃や筋萎縮が痛みよりも先に生じ、知覚神経由来よりも日常生活を脅かします。

日常生活動作内とは整形領域疾患のカテゴリに置かれますが、大概は疼痛や痺れ、その領域に沿った脳神経や内臓器の自律神経異常が生じ易いものの、脊髄から出始めの運動神経の罹患例が少ないのは、構造的な問題に依存する為です。腓骨神経麻痺や橈骨神経麻痺等の、比較的遠位の運動神経麻痺は経験者も多いかもしれないのでイメージし易いかもしれません。この状態が極めて近位から神経走行に沿った異常感覚や運動異常、筋萎縮が上肢全般、下肢全般に訪れると考えると、疼痛と対比した場合、相当な不自由さを自覚すると思います。

只、現実的には後角に存在する知覚神経由来が母数では多い為、いわゆる痛みや痺れ的な症状群が割合いとして多くなり、それに沿った議論も多いです。以下にシェアした内容の通り、そもそもの大前提としての病態の表現が適切ではない印象があります。「椎間板ヘルニアが悪化」とは、器質的な意味を表現しているものと思いますが、前後の流れを読む限り、機能性の悪化に直結している表現に見受けられます。また、このように類似した不適切な表現(不適切な解釈)は、他にも沢山あるかもしれません。

骨膜にも豊富に知覚神経は存在しますが、骨性/軟骨性の摩耗や圧壊、脱出や突出が極めて緩慢であれば、無症候で経過するケースも多いと思います。その例が、高齢者の骨量減少による、椎体の圧迫骨折の頻回による円背化での無症候例です。このような無症候例は病状問わず数限りなく存在し、中枢神経系で有名なものであれば、脳の微小梗塞でしょう。極めて緩慢に経過すれば、仮にMRIやMRA、CTその他で所見上は異常が存在しても、症状として自覚せずに過ごしている例は少なくありません。

只、構造的に円背を余儀なくされれば、大小問わずの椎体異常に限らず、椎間板の問題や骨棘形成は自然な流れかと思います。また、腰部後屈(股関節伸展)により椎間孔部での骨性のインピンジメントも、易惹起な環境になれば神経障害も目立ちますが、生活に不便さを感じないレベルであれば、それを症状と格上げしないだけでしょう。

そのような中でも緩慢な神経ダメージは、痛みは発症初期のみ、又は痛みも伴わないケースもありますが、特異的に腰椎下位を由来とする神経変性例は高齢で目立ち、多くが足底又は周囲の知覚鈍麻へと移行し、難治化します。回復したとしても年単位がザラです。神経根と前角/後角細胞の間を、末梢神経とするか中枢神経とするかは分かりませんが、直接的な侵襲が不可能な部位は、何れにしても間接的な栄養しか見込めない為、時間が掛かるのは受傷度合いに左右されるだけの問題ではなく、解剖的な問題も上乗せされます。

また、神経実質の高度な変性例は、椎間孔を開大しても、ヘルニアを切除しても、スペーサーを入れたり金具で固定しても、術後経過は圧倒的に悪いものです。構造的な開放で促通を促しても、自力回復が難しい状況なのでしょう。神経変性例は数週間~数か月掛けて完成するものですが、知覚鈍麻は疼痛もなく、運動神経が受傷してなければ、足関節や足趾の関節の運動異常や筋萎縮も見られない為、知覚神経由来で筋力低下が存在しない限り、生活が不自由になる事もありません。

純粋に生理的な知覚神経の受傷度合いのみにスポットを当てれば、最重症度と見られますが、多くは罹患神経の重症度で軽重を推し量る事はなく、日常生活の不便さで軽重を判定する為、受傷度の理解は剥離する部分はあります。骨性/軟骨性の構造的な問題を抱えている以上、突発的にも知覚神経障害を来す材料になり易いのは変わりませんが、それが緩慢な経過であれば周辺組織も適応し、症状として感じ難い環境が生まれます。

それが軟性/硬性問わず、椎孔の余白も十分に存在する腰椎且つ3層の膜で保護された神経が押されたところで、どれくらいの影響を腰下肢に与えるかは未だ疑問の多いところです。
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下位運動ニューロンは脊髄前角細胞から体幹や四肢へ走行し、何らかの原因で罹患した際は、筋萎縮や脱力、ファシクレーションや腱反射の減弱等の身体的特徴を呈します。脊髄後角や側角から分枝する、知覚神経や自律神経由来の症状群は日常的にも罹患し易く遭遇し易い反面、脊髄前角から分枝する下位運動ニューロンの障害が、日常生活上の身体ストレスで希少性が高いのは、解剖的に受傷し難い部位に存在する為と推測されます。

逆説的に受傷理由が不明瞭なまま、運動神経症状が単独で惹起された際は注視する理由が生まれます。只、四肢も遠位に従い運動神経の周径は太くなる特徴を持つ為、例えば手根管症候群や腓骨神経麻痺も、一般的な受傷理由以外での発症例も少なくない印象を持ちます。

以前、ANCA関連血管炎により腓骨神経を罹患(知覚/運動神経症状)した例(「持続的高濃度コルチゾルを示唆される誘発症状群と治療反応性と臨床的応用」 https://ameblo.jp/fujiwaranohari/entry-12332867171.html )を挙げましたが、ステロイドの投薬により全身状態は寛解を維持しているものの、随伴した足関節の背屈不能(腓骨神経麻痺)で受療に至ったケースがあります。

血管炎問わず、又、罹患神経問わず、膠原病や炎症性疾患、代謝性疾患による運動神経麻痺は知られた残存症となりますが、これらの罹患理由の基礎病態に、炎症を契機、又は明確な炎症が存在せずとも、炎症惹起と同様に機能する神経伝達物質や内分泌の変動による、神経細胞へのダメージの継続による罹患が示唆されています。

脱髄性が難治化する理由に、比較すれば軽度となる軸索変性と異なり、蛋白合成や伝達が不十分となる事が理由に考えられていますが、末梢/中枢神経問わず、罹患部位の腫瘍や血腫、瘢痕の特異的な存在を除外した上で、比較的純然たる脱髄は、軸索変性/neurapraxiaとは異なる治療応答を見せ、前者は極めて予後が悪い印象は拭えません。

一旦、下位運動ニューロンの四肢遠位で好発する手根管症候群に絞って考えてみます。内外因子問わず、圧迫や絞扼が起因のニューロパチーは、知覚神経症状も混合し、罹患部位から遠位の症状自覚が多い事から、判断はし易いものです。では、圧迫や絞扼、又、思いつく限りの受傷起因が存在せずとも自然発症する例も散見されます。発症起因として想像が容易い考察に、末梢血管に付着/散在している交感神経の存在を念頭に考察する事で、以後の自然発症例の経緯が理解し易くなります。

身体/精神ストレス問わず、人間の身体は何らかのストレスに暴露する事で、神経伝達物質や内分泌が変動します。この際、何らかの精神的緊張に侵された、又は侵され続けた際に、当該神経の栄養血管に不健全な状態が生じて発症すると捉えた場合、知覚神経や自律神経のみならず、運動神経の受傷も不思議ではありません。

幸い外傷等の高エネルギーでもなく、圧迫や絞扼理由もなければ、元来備える恒常性機能により、数週程度の定型的な改善を示すものと思われますが、持続理由がある場合、軽重問わず症状が継続すると推測されます。参考までに症例を1つ挙げます。
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age 35 sex m
日常的に精神ストレスが数か月に渡り持続した事で発症。各種検査も異常なし。以後、3週間程度で寛解を示す。幻聴 うつ症状 色覚異常(両眼性) 両耳鳴 両耳痛 口喝 両肩頸部痛 冷感 両手関節、両足関節から遠位の振戦 右下肢全般のファシクレーション 腓骨神経麻痺(右)
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このように実際の臨床像は、症状が単独で出現する事はありませんが、上記症例のように腓骨神経麻痺や同側の下肢全般にファシクレーションがあり、又、罹患起因に一般的なエピソードとなる腓骨頭の圧迫もなく、風邪ウイルス含む感染症その他の理由もなく受傷し、約3週間後に治癒しました。

自然発症例は元来の生理、解剖的な脆弱部位が易発症性を示す他、諸々の既往により個体差が生まれると推測され、又、暴露期間や個人の感受性等により重症度は左右し、罹患部位で症状も変化するのは仕方ないものの、精神ストレスの長期暴露により、知覚神経や自律神経だけでなく、運動神経の罹患ケースもある為、自然発症例とて如何なる神経系が罹患しても不思議ではない事を意味し、上記神経や理由問わず、あらゆる症状が惹起される事を知る必要があるかもしれません。

身体ストレスによる知覚神経を中心とした罹患理由は、人間の脊椎脊髄の構造的な問題に依存する為、好発理由や好発部位も絞られますが、精神ストレスは全身への暴露を意味する為、罹患部位も多岐に及び、その結果、症状は絞り難く複合し、複雑性は高まると推測されます。

7)持続且つ不随意の異常筋収縮を特徴に持つ症状の治療経過から見える単一筋の弛緩経過

他覚的にも異常を見せる錐体外路症状の代表に、大脳基底核/小脳由来のジストニアがあります。当該症状は定義や解釈も曖昧な側面もあり、全身性から局所性その他と様々な病態を呈しますが、分かり易いよう片側性の頸板状筋で考えていきたいと思います。

後頸部の頸板状筋が持続的に異常収縮を惹起した場合、写真の通り視点は上方に向く為、視線を床と平行に保つには、直立位では眼球を下方に向けるか(1枚目)、股関節を屈曲させるか(2枚目)となり、階段を降りる時(3枚目)などは足元を見れない為に顕著に支障を来し、日常生活に不便さが生じます。一般的には非疼痛性疾患ですが、収縮又は拮抗筋の伸張度合い等により、疼痛自覚や経年により頸椎の変形等も見られます。
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単一筋の受傷は治療経過を見る上で、疾患を読み解く因子になるかもしれません。頸板状筋はth3~6棘突起から起始し、上項線外側1/3、乳様突起、c1~4の横突起で停止します(※諸説あります。奇形や異常走行を持つ場合も踏まえればこの限りではありません)。頸部ジストニアは、主に胸鎖乳突筋か頸板状筋に絞られますが、あくまで結果論としての表現の為、当該筋への処置では著効し難い中枢神経疾患の範疇になります。その為、治療内容は頸椎椎間孔近傍、頸椎交感神経節近傍が主です。

上記の通り頸板状筋はth3~6棘突起から起始し、上項線外側1/3、乳様突起、c1~4の横突起で停止します。当初は当該筋全般が異常収縮を呈していた状態が、治療を累積させる事により、停止側に筋の収縮範囲が狭小化しながら改善を示しました。今例やジストニア全般に限らずですが、多くは改善過程で起始側、又は停止側に症状が変位していく、狭小化していく傾向は散見されます。また今例では、筋細胞や神経細胞を破壊して弛緩を見込むボツリヌス毒素やフェノール/エタノール注射、抗コリン剤やベンゾジアゼピン薬、バクロフェン、ITB療法、筋延長術等とは異なる経過を辿る事も示唆されます。

これらの経過を踏まえる限り、中枢神経に原因を持つ筋群の異常収縮例も、改善過程では起始側、又は停止側に発症範囲が偏る経過が見られ、類似症状も含め参考になり得ると考えられます。※写真に写っているのは私(藤原)です。撮影には実際の患者を用いたかったのですが、顔が写りこむ等のプライバシーへの配慮が出来ないと感じた為、私自身が動作を真似ています。
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8)ベンゾジアゼピン薬の離脱症状による筋減少

何らかの物質に暴露し続ける事で神経適応が生じます。その為、神経適応が生じた物質を体内から排除する、減量する事で離脱症状が生じます。この現象は物質由来の症状とは異なり、自己の神経伝達物質や関連の異常と推測される事から、現在も取り込んでいる場合、急速な排除や減量がリスクに発展します。

これらの病態はMRIその他でも描写出来ない為、原因不明とされ易く、また、神経伝達物質や関連の異常の為、逆説的に自然発症例の理由も見えてきますが、自然発症例と症状群が類似する事が病態把握を濁らせるデメリットに繋がります。肩こり腰痛1つ取り上げても、様々な疾患で惹起される通り、結果論の症状を発症する部位の受傷により、それに見合った症状が表現されるだけで、極論を述べれば物質を問う必要性が生まれません。

何により受傷したかを知るのも大切ですが、どうすれば一先ずの安定を見越せるかを考えると、罹患理由問わず多くの共通点があり、その背景となる寛解増悪因子に、神経伝達物質が関与している裏付けにもなります。また、これらの理由から神経伝達物質を変動させる薬剤が、あらゆる症状に対して有効自覚を齎す理由となり、その中長期的な取り込みがリスクに繋がります。

ベンゾ離脱も軽重あれど、数十も症状が惹起されます。原因は脳及び脊髄由来は確実視され、自己分泌能やレセプタ、GABAの前駆体、グルタミン酸の過剰による興奮性細胞死が大きな軸になると推測され、その事で他の中枢/末梢の神経伝達物質や内分泌にも異常を来し、症状の数は膨れ上がると推測されます。

全症例の特徴と共通点とし、他の由来を持つ症例と同様、身体/精神/環境因子のストレスに連動し、重症度が高い程、増悪自覚の鋭敏さは顕著な印象を持ちます。また、状態が改善するに従い、あらゆる因子に暴露しても当初ほど増悪せず、仮に増悪自覚後の改善速度も急速になる模様を受けます。

大脳や小脳、脊髄の極めて密で広範囲に及ぶ神経細胞の何処の部位がどのように受傷するかは、症状の内容や軽重も個体差が見られる以上、個々人で異なるのが自然です。また、ベンゾ離脱と表現していますが、ベンゾ単剤例だけではなく、抗うつ薬やメジャーの混在例も多い為、一概に説明出来る内容ではありませんが、いずれもシナプス間隙で異常が生じた諸々のエラーによる波及と捉えると、応用的な考察はし易くなります。

数十の症状が惹起されているものの、その個人の訴えが最も強いものが、重症度の高い症状であると、以後の治療累積により明確化してきます。結果論かもしれませんが、軽度の症状から改善、そして安定し、重度の症状は軽度の症状が安定しても尚残存し、不安定感の高さが見られるのは、他の由来を持つ症例でも同様で、それを順繰り順繰り繰り返す事で、いずれは無症候、改善へ繋がっていく印象を覚えます。

良化への昇華は治療と病態がマッチングしていれば改善へと進みます。それらを根気よく擦り合わせていく事で、様々な病態解釈に繋がりますし、薬を変えて反応を見る薬物治療とは異なり、針刺し行為でしかない為、個人の脆弱部位も見えてきます。

前置きはこれで終わり、表題の通り今回はベンゾ離脱でも少々的を絞り、筋減少の推移に関しての脆弱性を考えていきたいと思います。治療動機は様々な理由があると思いますが、大半はあらゆる行為も無効且つ検査も異常が見られていないケースも多く、更に進行増悪期の為、一旦は停滞期から回復期に向かう迄の期間も考慮すると、改善自覚を強く得る迄も数か月単位は必要かもしれません。

ベンゾ離脱の基礎病態となる交感神経の持続的な亢進に伴う異化の促進が大カテゴリに挙げられます。この状態が基礎に存在し続ける限り、改善しても前程ではないが脆弱性は常時ある、が課題と問題点に挙げられます。異化の促進に関わる内分泌等々の類の説明は一旦割愛し、どのような状況で脆弱性が高まるかだけ改めて述べると、好発部位は抗重力筋全般、頻回使用部位、同一姿位部位が全症例の共通となり、更にベースとなる飲食物の消化/吸収を左右する胃腸機能の問題も挙げられます。

筋肉と胃腸機能を担う副交感性の神経伝達物質は、サブタイプレセプタは異なるもののアセチルコリンです。勿論ベンゾ離脱により中枢のみならず末梢のセロトニン濃度も変化すると推測される為、下痢が続く患者もいれば、便秘が続く患者もいますが、両者共に健全な胃腸機能とは言えない状態だと思います。

第1背側骨間筋、短母子外転筋等は日常生活やPC、スマホ等で頻回使用される部位の為、当該部位のエネルギー消費が高度な中、エネルギー供給が遅延傾向を示す基礎病態が持続している場合、視覚的にも減少自覚は顕著かもしれません。異化の促進による筋減少の好発部位と、本態性ALSの痩せ自覚の好発部位共に両筋群が共通する事で、当該症状を惹起した場合は相応の不安を抱えると思います。

異化の促進による筋減少は、進行速度が速過ぎる事も1つの鑑別的な役割を持ちます。痩せる速度が速過ぎるのは1つの不安材料かもしれませんが、運動神経の脱落による痩せで、このような速度は流石に考えられません。

以下は神経原生疾患による筋萎縮の病理です。左が健常例で、右が異常例です。右の例を見ると、左半分は筋線維が保たれており、右半分中央部は筋線維の萎縮が目立つのが分かります。筋肉もそれぞれ支配神経が異なる為、受傷した神経細胞が担当する筋線維が選択的に萎縮を起こしている事が比較出来ます。この通り、代謝異常と思しき筋萎縮は、神経原生疾患の筋萎縮とは異なると推測されます。

       

※ 異化の促進(亢進)による概要図 図の引用)大柳治正:栄養状態と生理機能.「コメディカルのための静脈・経腸栄養ガイドライン」(日本静脈経腸栄養学会),p.5,南江堂,2000       
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 イメージ 1 ~針治療から病態定義の見直しを~