藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

鍵コメさんからのご質問に対して。

長くなりそうなので、こちらに書かせてください。
 
いつも有難う御座います。
気兼ね無くご連絡下さいね。今後ともどうぞ宜しくお願い致します。
 
この手の身体観は各治療家によって違うでしょうから
あくまで主観だらけの私論として捉えて頂ければと思います。
賛否が伴う内容かと存じます。
「否」のご意見があれば、正直に教えて頂ければ幸いです。

ここ最近の風潮がMPS=TrPの解釈で蔓延しておりますので、
些か過ちと誤解を生み易い点もありますが、
TrPだけに対しての処置だけで治らないのは以前からも書いている通り、
私に限らず各治療家も既に気付いていると思うのです。
TrPが未だに痛み治療の土台を築けない理由は幾つかあると思います。
 
・Aの術者とBの術者ではTrPの探索方法も違えば、TrPとして判別する評価材料がない。
 
・仮に押圧してジャンプサインや関連痛が発生したとしても、それをTrPとするのは誰も決める事が出来ない。
 要は、経穴や硬結の探索や意義と対して変わらず、且つ、治療結果を約束出来ない。
 
・MPSの概念に逃げ道を作る流れが起き始めている。
 「MPS+不安」とか、術者の言ったもん勝ちの世界になりつつある。
 
他にもありそうな気もしますが、結果が出ぬ治療法に関しては、
必ず心因性疼痛の話題をチラつかせる状況が私は好きではないのですね。
 
それでも尚TrPに固執するのは、TrPの組成要因を探索出来ない日々が続いているか、
単なる硬結に対して鍼を打ち込むという、理論も何も無い「針立て屋」に何時の間にか終始しているか、
関連痛と圧痛点の取り違えにより、全く効かせられぬ鍼屋になっているか、
どこかの研究会に洗脳されているからでしょう。
 
軸のある治療は大切かと思いますが、治らぬ理論を軸としても
私は単なる固定観念から抜け出せぬ事態に陥っていると判断し、
常に第三者的視点から自身の理論を日々見つめ直しています。
 
TrPや硬結というモノが存在した場合、それらに対して処置をする事は大切だと考えています。
酸素が突き抜けられる要因を鍼という道具を用いて損傷を加える事は非常に重要かと思います。
しかし、TrP及び硬結を処置した直後は良いものの、
日数の経過でぶり返すのは以前書いた下記の内容があるからとも考えています。


手技及び鍼灸にて考察されている大半の理論というものが、
症状別に応じた鍼の打つ箇所であったり(例えば、腰が痛い時はこのツボ的な内容)
硬結~TrPに対しての触知法及び処置に終始しており、
「硬結やTrPの組成要因に対しての処置」が抜け落ちているのが現状です。
端的に申し上げると、全ては結果に対してのみの治療法であり、
理論背景は非常に脆弱性が強く、様々な患者の症状に対して包括出来ぬ状態であり、
結果的には鍼灸治療がアングラ的要素から脱出出来ない要因となっているのでしょう。
エビデンス確立が時としてエビ固め的な(TMSjapan風)状況に陥るのも、
理論背景に関しての蓄積が無い確固たる証拠かと捉えています。
 
以前より記述している内容ではありますが、
「何故、硬結やTrPが組成されたか」を考察し、刺鍼箇所を選定しなければ、
患者の日々変化する症状に対して「追いかけっこ」となり、
「治療計画」「結果予測」「次回予約の理想日」「次回治療時の刺鍼箇所」「次回治療時の患者の治療姿位」
ぼやけてしまい、再来院された毎に患者の症状の変化に翻弄され、
時間と鍼を無駄にしてしまう事となります。この事は患者に対しても大きなデメリットになります。
 
Q,問題筋があっても、痛みに直接関係ないと判断した場合は、いじらないと言う感じでしょうか?
A、私は、治療回数を追う毎に変化する痛みに対しては、原則的に放置しています。
 
勿論、治療前後で症状発症箇所は伺いますが、手を付ける事は極力しません。
例えば腰下肢痛患者に対して原発を見極め処理し続けた場合、荷重のベクトルが変化します。
治療前に腰下肢が痛い状況で歩行していた時とは明らかに変化が起き始めます。
この場合、治療前後では良くも悪くも下肢の各筋群に大きな変化が起きます。
 
各関連筋群の弛緩に伴い、伸収縮の度合いも変化します。
過去には痛みや痺れの為に使用されていなかった筋群も動き始め、日常生活にて使用される事になる為、
疲労物質が今まで以上に蓄積されますし、鍼灸治療にて急激な筋弛緩を得る事になる為、
患者にとっては予測不能な筋膜刺激へと発展し、痛みが飛んで歩くような状況に苛まれます。
しかしながら、治療後に発生する痛みに関しては、過去に痛みで使用されていなかった筋群が
使用されるようになった為に痛みが発生した事による良化への一歩だと考えています。
 
そのような、原発ではなく単なる治療回数を追う毎に発症した拮抗筋、協同筋等々の筋膜刺激にて
発症した痛みに対して鍼を落とし込む事になると、
本来の健康な状態に戻りたがっている患者の荷重ベクトルを更に変化させてしまう事になりますね。
これが、ご質問の内容にもある「寝た子を起こす」状態へと発展させてしまいます。


そこに何故TrPが組成されたかを考察する治療を行う事で、ある程度は答えが見つかると思います。
腰下肢全体を詳細に診ると、膨大な時間が掛かります。そして、私はそれを無駄と考えている節もあります。

以前は足底接地時の荷重バランスを始め、
接地前、接地中、足底の離れた時の左右の筋状態他、
都度の足関節、膝関節、股関節、各椎間関節等々と
全ての可動筋群を把握しながら治療を行う事がベストだと考えていました。
 
初学時は経絡テストや経筋学、アナトミートレイン的な要素も強く取り入れていたと記憶していますが、
残念ながら、視点は筋肉から脱し得なかった以上、躓いていました。
筋肉に栄養を与えているのは何かを考えておらず、且つ、これらの理論に関しては、
どれもこれも「伸収縮している筋肉をどうするか」に固執している内容ばかりで、私にはどうでも良い内容でした。
 
⇒TrP以前に、大腿前面が何で緊張しているか、それは腰部が屈曲姿位になっているからに他なりません。
⇒では、何故腰部が屈曲姿位になっているか。腰椎のROMなんてたかが知れています。
⇒そこには股関節に関わる各当該筋群の伸収縮された筋群に他なりません。
⇒では、何故股関節の各当該筋群が不適格な状態に陥っているのか。
⇒何故、股関節の各筋群が制御不能状態に陥っているのか。
⇒では、股関節の各筋群が制御不能状態に陥っている状態を補正出来るべく統括している箇所はどこか等々、
このように、それは何故か、それは何故かを突き詰めていく必要性がありました。
でなければ、一人一人全て異なる患者の症状に対して一向に対応出来なくなると考えました。
 
これらを考察せねば、行き当たりバッタリの治療で終わるか、
あの患者は治せたけど、この患者は治せないという現象が発生するのだと思います。
そうならないように、全てを包括し得る理論が必要となりました。
経験則で生まれた理論には、足元は常にグラついているような、吹けば飛ぶ脆弱性が付き纏います。
そのような事がない為に、私は常に理論先行型の治療を心掛けているのです。
という訳で、死ぬまで完成する事はないでしょうけど、日々理論を壊しては積み重ねているのです。

患者の現状の姿勢を見て、理想的な姿勢に正してもらう事を指示するのは、
解剖学を学んでいれば誰でも出来る簡単な事ですが、
患者は痛み痺れ等々の結果、現状の姿勢に成らざるを得ない状況に陥っています。

これらの各不良姿勢等々に関しては、治療を以って自然に解決するものと捉えています。
例えば、痛みの為に収縮せざるを得ない大腿前面の筋群が原因で、
腰が曲がっているからと、姿勢を正すように指導すれば、
大腿前面は無理に引き伸ばされ、結果的に患者の負担は増すことになってしまいますね。
 
そのような事が発生しない為にも、
常に原発を捉えた治療を行い続け、主訴の軽減を図ると共に、再診毎に治療評価を頂き、
更に精度を上げていく治療を行う事が現在の私の一つの方針でもあります。
原発を捉えた治療を行う事で、治療後は今まで通りの生活している内に
(勿論生活時のアドバイスは守ってもらいたいですが)いつの間にか良化していきます。
 
姿勢や疼痛性跛行に関しては、
三者が見ても、良化している具合が目で見て分かる事がベストだと考えています。
患者自身で意識している内はなかなか良い姿勢には戻らないものです。
勿論、姿見等を見ながら姿勢の補正を行う事は大切ですが、
鏡を見ている時点で、それは自然な状態ではありません。初めは大切かもしれませんが、
後々にはカメラで撮影するとか、他者に見てもらい評価をしてもらうのが一番良いのでしょう。
それも落ち着いたら、身内に協力してもらって、コッソリ歩行状態を見てもらうのも良いでしょう。
 
本院には際立って大きな鏡を置いていません。
この事で、患者自身は現状の姿勢がどのようになっているか把握出来ず、私しか分からない環境となります。
問診時や視診時に「姿勢を見せて下さい」と声を掛けた時点で患者は現状の姿勢が変化します。
要は、改まった姿勢になる為、そのような姿勢を見ても何の判断にもならないのです。
その為にも入室された時点で見る必要性があるのですが、まぁそんなに最近は気にしていないです。
 
各関節の荷重按分具合等々を確認するのは、正直至難の業です。
そして、そのような事を行う必要性も薄く感じ始めています。治療後の患者後の姿勢や、
再診時の姿勢にて、初めてお伝えしておく程度で良いものだと考えるようになりました。
 
痛くて腰が曲がっている人に良い姿勢を作ってと言っても
痛いから腰が曲がっているのであって、伸ばせと言っても無理な話ですからね。
それであれば、痛みを取ってから姿勢の補正は行っていけば良いのだと思います。
 
そんなこんなで、コメント欄にありました内容も非常に重要な事だと思います。
私自身は各種代償負担部位及び各種代償的疼痛部位による各種症状を追いかけて原発を探索し、
治療を行うスタンスですが、全身を見つめる身体観も大切だと考えています。
但し、全身を見つめた身体観を治療として落とし込むのではなく、
原発を定めた治療を行い続ける事で変化しうる全身状態を、一つの評価基準としているのです。
 
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上図はコリや硬結等の組成から派生した症状を分かり易く表現したものですね。
このような状態に陥っている筋肉に対して処置を行う事も大切ですが、
何故、この筋肉がこのような状態に陥っているかを考察する事が治療を行う上で大切だと考えています。
それでなければ、治療効果は一時的にしか得られないでしょう。
 
 青森から鍼灸治療の意識改革を~