藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

運鍼時の考察 ※鍵コメさんからのご質問より

熱心な鍵コメさんからのご質問のお陰で
私自身の治療理論も改めて考えさせて頂く機会を得られた事に感謝しております。
他の治療家の方々も日々研鑽を重ね、現場で落とし込み、患者を改善へと導いているのと同様、
当院に関しても理論を分解~積み直しを繰り返し、改善へと導いております。
 
私の性格的な面も関与しているとは思うのですが、
過去から現在に掛けて、鍼灸治療に関して考察された書籍は様々ありますが、
欲する内容が一切無いというのが正直なところでした。
手技及び鍼灸にて考察されている大半の理論というものが、
症状別に応じた鍼の打つ箇所であったり(例えば、腰が痛い時はこのツボ的な内容)
硬結~TrPに対しての触知法及び処置に終始しており、
「硬結やTrPの組成要因に対しての処置」が抜け落ちているのが現状です。
端的に申し上げると、全ては結果に対してのみの治療法であり、
理論背景は非常に脆弱性が強く、様々な患者の症状に対して包括出来ぬ状態であり、
結果的には鍼灸治療がアングラ的要素から脱出出来ない要因となっているのでしょう。
エビデンス確立が時としてエビ固め的な(TMSjapan風)状況に陥るのも、
理論背景に関しての蓄積が無い確固たる証拠かと捉えています。
 
以前より記述している内容ではありますが、
「何故、硬結やTrPが組成されたか」を考察し、刺鍼箇所を選定しなければ、
患者の日々変化する症状に対して「追いかけっこ」となり、
「治療計画」「結果予測」「次回予約の理想日」「次回治療時の刺鍼箇所」「次回治療時の患者の治療姿位」
ぼやけてしまい、再来院された毎に患者の症状の変化に翻弄され、
時間と鍼を無駄にしてしまう事となります。この事は患者に対しても大きなデメリットになります。
 
患者は限りある貴重な時間を治療に充てています。
上記の青字の計画を術者が事前に立てられていない場合、治療と時間は無益なものに終わるでしょう。
まして、鍼灸治療に来られる患者は昨日今日の痛みで来院する患者は数%です。
数ヶ月~数年と様々な病院や治療院を回り、その間も良化と悪化の天秤を「悪化」に向かせた状態で
鍼灸治療院の門を叩きます。このような身体状態では、一回で治すという状況は非常に難しいのです。
鍼灸治療を望まれる方は「除痛」を希望されている患者が大半かとは思いますが、
私は「痛みの起きない身体」にする事が主目的である為、
治療回数を追う毎に変化変動する痛みさえも私は肯定してもらいます。
それには全て裏づけされた理由があるからで、治癒過程への道程だからです。
 
鍵コメさんのご質問を一部抜粋させて頂きます。
Q,問題筋があっても、痛みに直接関係ないと判断した場合は、いじらないと言う感じでしょうか?
A、私は、治療回数を追う毎に変化する痛みに対しては、原則的に放置しています。
 
勿論、治療前後で症状発症箇所は伺いますが、手を付ける事は極力しません。
例えば腰下肢痛患者に対して原発を見極め処理し続けた場合、荷重のベクトルが変化します。
治療前に腰下肢が痛い状況で歩行していた時とは明らかに変化が起き始めます。
この場合、治療前後では良くも悪くも下肢の各筋群に大きな変化が起きます。
 
各関連筋群の弛緩に伴い、伸収縮の度合いも変化します。
過去には痛みや痺れの為に使用されていなかった筋群も動き始め、日常生活にて使用される事になる為、
疲労物質が今まで以上に蓄積されますし、鍼灸治療にて急激な筋弛緩を得る事になる為、
患者にとっては予測不能な筋膜刺激へと発展し、痛みが飛んで歩くような状況に苛まれます。
しかしながら、治療後に発生する痛みに関しては、過去に痛みで使用されていなかった筋群が
使用されるようになった為に痛みが発生した事による良化への一歩だと考えています。
 
そのような、原発ではなく単なる治療回数を追う毎に発症した拮抗筋、協同筋等々の筋膜刺激にて
発症した痛みに対して鍼を落とし込む事になると、
本来の健康な状態に戻りたがっている患者の荷重ベクトルを更に変化させてしまう事になりますね。
これが、ご質問の内容にもある「寝た子を起こす」状態へと発展させてしまいます。
 
以前、私がぼやいていた内容を改めてコピペします。


○○様がTPBを受けられた期日は存じ上げませんが、
ご存知の通り、TPBは麻酔薬を体内に浸潤させる為に注射針が体内に刺さります。
そして、注射針による刺激だけでも筋肉の痛みに対して奏功致します。
その為、症状の程度にもよりますが、針が的を得ている場合は1週間程度の時間を掛けて快方に向かい続け、
1回の治療で100%良くなる事はないにせよ、痛みもぶり返す事なく安定し、治療回数の
積み重ねにより良くなり続けていきます。

質問①に関しては、引き続き効果的なTPBを受けられる事並びに、
強く押すと痛い場所の筋肉が拘縮されてしまった原因にもアプローチしない限りは
その場凌ぎの結果で終わり続けてしまいます。他、日常生活の見直しも大変重要となります。

質問②に関しては、通院時による疲労による筋緊張とも考えられます。実際に見た訳ではないので
広範囲という状況が分かりかねますが、いずれ落ち着くものと思います。
完治される事を祈っています。

トリガーのみでの治療を行う場合、軽症患者しか完治しない事は、
治療を行う側の人間だったら直ぐに気付くはずです。トリガーはあくまで痛みの結果であり、
原因ではありません。トリガーが出来た理由を探り、
治療を行わなければ治癒までは程遠いものになってしまいます。

麻酔薬の効果云々に関しては詳しく申し上げられないのですが、
針が体内に差し込まれれば、大なり小なり傷が付きます。
この刺傷を治す作用は炎症期~瘢痕期~治癒期と経過していくのですが、日数が掛かります。
その為に、治療直後に結果が自覚なされなくとも、しかと原因へアプローチが出来ていれば
後は日常生活を気をつけて送って頂くだけで楽になってきます。

評価法の為にも、私は関連痛の箇所は無視して治療を行っているのですが、○○さんが仰られる通り
原因の箇所(原発)さえ捉えた治療が出来ていれば、当初の関連痛の箇所は軽減されつつ、どんどん
関連痛が原発に近くなっていき、最後は原発の痛みを残すのみという段階を経る事になります。

いわゆるMPSに関しては、
仕事や生活環境に於ける悪化因子の積み重ねでの発症が大方で考えている為、
(挫傷や打撲、骨折等々も勿論ありますが…)
個人宅への往診も積極的に行い、治療と生活指導も行います。

では、何故患者さんがそのような症状にならざるを得なかったかを考えると
治療する側としてはアプローチする場所は見えてきます。

>>その治療とはどのようなものなのでしょうか?

原則的に全て鍼治療で行います。
例えば、○○先生が11月27日に取り上げていた症例では、

「Aさんは6時間のドライブの次の日より腰痛。
 腰をまっすぐに伸ばせない。寝がえりできない。腹ばいになれない。
 大腰筋のMPSです。
 長時間股関節を屈曲位にしておいたので大腰筋が伸びなくなってしまったのです。」

とあります。確かに大腰筋は腰椎を屈曲させる為に大きなウエイトを占めてくるものであり、
腰椎の伸展障害が見られた場合、私も大腰筋へのアプローチを行う事になるでしょう。
しかし、大腰筋の持続的な短縮は長時間のドライブによる結果、伸展障害を発生させた
だけであり、原因とは異なると捉えています。

筋肉の短縮やトリガーの発生は、血流不足によるものなので、
私はトリガーの処理以前に血流確保を重要視しています。

長時間のドライブでは、数箇所のポイントで大きな血流障害を起こす箇所があります。
これらの筋群にアプローチを行わなければ、ぶり返す可能性は非常に高いと思います。

余談ですが、大腰筋は体格にもよりますが7~10センチ奥と相当深い筋肉である事、
そして背中側から見た場合は背骨の奥にあるので、大腰筋のMPSを触知する場合、
お腹側から何とか触れたかなと感じられる程度のものです。
その為、比較的痩せている患者さんでなければ大腰筋の触知は出来ないと思います。

余談で、体重や筋肉量の多少というのは痛みとは関係ないと言われていますが、
私の経験上では、体重は軽く、筋肉量も多い方程、回復は早い気がします。
自重が軽いという事は、治療後も負担を掛けにくいですからね。


私の治療は、鍼で痛みを止める方針ではないのです。ケースバイケースで用いる事もありますが、
除痛を求める治療方針は単なる対処療法でしかないと考えています。
 
治療を行う事で変化する痛みや痺れを患者に受容してもらいながら
日常生活を「今まで通り」に営んで頂く事で、私が治療中に各患者にアドバイスをする
日常生活に於ける悪化因子が明確に判断を付けられるようになってきます。
除痛のみに特化した場合、患者は日常生活での悪化因子に「気付き」を得られなくなります。
そうなった場合、直ぐ先に見えてくる患者の症状は「再発」だけです。
 
手術、投薬、リハビリ、リハビリと称する筋トレ等々含め、鍼灸治療も患者にとっては非日常的な世界です。
しかし、鍼灸治療の効果は患者の日常生活に溶け込ませるようにしなければ、
その場限りの結果だけで終わります。クドイようで恐縮ですが、
患者は鍼を受けている時間以外は、寝て立って座って、仕事や生活をしています。。
生活を過ごす中で自身で悪化因子に気付きがあり、納得する事で初めて患者は治癒への道を昇ります。
除痛に終始した治療であれば、患者は気付きも納得もなく、数日後には治療前と同じ症状に戻るでしょう。
 
術者側の思考に立って判断した場合、
患者が「あそこもここも痛い」と言ってきた場合、「あそこもここも鍼を刺そうかな」と術者が思う気持ちも
分かります。患者にとっても、痛い箇所に鍼を打つ事で良くなるという感覚もあるでしょうから尚の事です。
 
ここで、自身の治効理論に軸が無かった場合、
治療は追いかけっこになり、時間と使用した鍼が無駄になります。
正直言えば、私の理論から派生する治療方針や治療効果(結果)というのは、
患者意識とリンクし難い点も多くあると思います。症状発症箇所に対して鍼を打つ事もなければ、
患者説明に関しても既存医学で聞かされてきた内容とは異なります。
なるだけ分かるように説明はしているつもりですが…。
 
しかし、結果さえ出し続ければ患者は必ず納得してくれるものです。
そして、生活時の姿勢等々に関しても大きな納得と気付きを得られる事になると考えています。
 
>>臀部下肢痛ですと結局問題筋全てを処理しないと、痛みが次々にかわって行くような症例です。
このような場合でも、私は原発を一つに絞ります。
とは言え、実際の現場では原発の処理及び、原発が再発動し難い身体を保持せねばならぬ為、
ある程度の補助的な処置も併行しますが、鍵コメさんがコメント欄に書かれていた
7文字のカタカナ(このカタカナを書くと先生が特定されるでしょうから敢えて伏字で書きますね)を
用いる程の必要性も低く、私にとっては患者の負担が大きいかなとも考えています。
 
続きます。
 
 
 青森から鍼灸治療の意識改革を~