藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

Q&A 慢性的な腰痛患者ですが、NSAIDsって効くの?

A,ご質問頂き有難う御座います。
  私なりの仮説を立て、せっかくなので鍼灸治療と関連付けて考えてみます。
 
事前知識としてNSAIDsと筋肉痛と筋膜痛の概要を知る必要性があるので記載します。
(分かり辛いと思いますので、いつか噛み砕いて書きます。)


NSAIDs⇒
NSAIDsは、抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用、抗血小板作用など様々な薬理作用を持ち、
リウマチ頭痛歯痛、外傷、術後痛、発熱などに対し、日常の医療で頻繁に用いられている。
NSAIDsには、アラキドン酸からPGの合成を阻害することによって、鎮痛作用、抗炎症作用、
解熱作用を現すが、COXの合成を阻害するもの、COXの活性を阻害するものCOX-2
合成を選択的に阻害するものなどがある。
 


筋肉痛⇒
運動後数時間から1~2日後に痛みが生じて、1週間程度で自然に消滅する筋肉痛である。
不慣れで強い伸張性収縮運動
eccentric exercise contraction: ECCに伴って、しばしばDOMSを生じる。 ECCとは、筋肉が引き伸ばされながら力を発揮する収縮。筋長が最大限に伸びた時に       伸張負荷が加わると、ECCが生じ やすく、筋力低下、腫脹も顕著になる。
筋肉が短縮する動作のみの等尺性や短縮性収縮運動 concentric exercise contraction: CECでは
ほとんど生じない。下り坂走 downhill runningDOMSを誘発することは知られている。
 
運動により筋線維にミクロの損傷ができ、それに伴い一連の炎症反応が起こることで痛みを感じる。
DOMSの本態は、筋と結合組織の損傷後の炎症反応に伴う現象。
痛覚受容器は、筋線維そのものにはなく、筋膜に存在する。
 
筋線維の微細損傷の修復時にみられる炎症過程で発痛物質が発生しこれが筋膜を刺激して
痛みが起こる。伸張性収縮運動を行い、筋が損傷を受けると、筋線維の傷害を反映している
クレアチンキナーゼ(CK)の血中濃度で増加する。CKは運動後34日目にピークに達する。
CKのピーク時点で、筋線維は壊死し、白血球の浸潤や腫脹などの炎症像が見られる。


筋膜痛⇒
筋肉が収縮する際、運動神経線維の末端からアセチルコリンが放出され、
筋線維から終板電位が発生する。 これが引き金となり、筋線維から活動電位が発生する。 
 
活動電位が筋線維の横行小管に伝わると、筋小胞体の終末槽からカルシウムイオンが
細胞質(筋奨)内に放出され、太いミオシンフィラメントの間に細いアクチンフイラメントが
滑り込んで収縮する。
 
筋線維への過大な負荷により筋小胞体が傷害され、
活動電位が出なくても筋小胞体からカルシウムイオンが筋漿に出ていく。
この結果、太いフィラメントの間に細いフィラメントが滑り込む。このようにして筋線維が短縮する。
このとき活動電位が出ないので、収縮と呼ばず拘縮と称している。
 
拘縮が発生すると、血流が障害され、これに拘縮によるエネルギー消費の増大が加わって
代謝産物が蓄積し、ブラジキニンが産出されて痛みを生じる。このときプロスタグランジンも産出され、
ブラジキニンの発痛作用を増加する。筋肉が痛みの発生源となると、
反射性筋収縮や血管収縮が加わって痛みを強め、痛みの悪循環ができ上がる。
また太いフィラメントの間に滑り込んだ細いフィラメントが元に戻るのにATPのエネルギーを必要とする。
血流が悪いとATPの産生が減ってなかなか拘縮が解けない。 
 
筋肉を意識して収縮させることを筋収縮と言う。
意識して筋肉をコントロールできる範囲のことで、意思に反した収縮を筋拘縮、
さらに進んで硬く固まった状態を筋硬結、慢性化して痛みの原因となっている。
 
パターン1
過度の収縮や伸張、外傷などで筋組織に微小な損傷がおこる。
それにより損傷部位周辺にCaイオンが放出され、筋は持続的に収縮する。  
その結果、周辺の毛細血管が収縮した筋に圧迫され続けることになり、組織の酸素不足、
エネルギー不足、代謝老廃物の蓄積へとつながり、発痛物質が産生される。
 
パターン2
繰り返し動作や、同じ姿勢の維持などによる持続的収縮により、ATPが不足する。
その結果、筋の収縮と弛緩を司るCaチャネルが働かなくなり、
筋繊維の一部が持続的に収縮する。
このように筋繊維の一部が持続的に収縮し硬くなった状態を「筋拘縮」さらには「筋硬結」という。
こうなると、周辺の毛細血管の流れが悪くなり、血液が足りない虚血という状態になる。  
それにより細胞から興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸が漏出し、
それが筋膜などにある知覚の受容器を興奮させ痛みを感じさせる。

いずれにしろ、局所循環の傷害により、感作(発痛)物質が産生されて、圧痛が生じる。


筋肉痛と筋膜痛のパターン1の解釈はほぼ同じです。単にその場で終えるか長引くかの違いです。
結果的に筋損傷にて派生した際、修復時にみられる炎症過程で発痛物質が発生し、
筋膜を刺激して痛みが起こる訳ですからね。NSAIDsはこの症状に対して効果を発揮するでしょう。
 
しかし、問題なのはパターン2の患者が大半を占めているという点でしょう。
日常的に繰り返される動作や、同一部の圧迫等々による持続的筋収縮にて
筋肉へATPが入り込めない状況が生じ、筋短縮による容積変化に伴い発症する痛みですね。
恐らく、NSAIDsが効かない症状であると思われます。
 
以前、このような内容を当ブログで書いた事があります。


例として、長年、右臀部から右足部までの痛み
(一般的には梨状筋症候群や坐骨神経痛と診断されるでしょう。
 画像所見次第で脊柱管狭窄症だったり椎間板ヘルニアだったり等々)
を抱えており、痛む箇所を逃がすようにし、上半身が左に傾いている状態も長期間に渡り発生していた
場合、歩行時に使用される筋肉の箇所や筋肉量等々は、健常時に比べると大きく変化して参ります。
 
下記は、健常時に於ける歩行の際に使用される筋群です。
 
歩行周期からみた筋活動・・・立脚期と遊脚期に分けて考えましょう。
・全歩行周期を通して活動する筋:脊柱起立筋群、前脛骨筋
・立脚期前半に活動する筋:大殿筋、中殿筋、大腿四頭筋ハムストリングス
                 前脛骨筋などの足関節背屈筋群
・立脚期後半に活動する筋:腓腹筋、ヒラメ筋、後脛骨筋、長母指屈筋、腓骨筋群など
・遊脚期前半に活動する筋:腸腰筋、股内転筋群など
・遊脚期後半に活動する筋:大腿四頭筋ハムストリングスなど

機能面からみた筋活動・・・安定性、加速性、減速性と分けて考えましょう。
・股関節外転筋群:立脚初期に骨盤の安定性に関与
・股関節内転筋群:立脚初期に外転筋と共同して骨盤の安定性に関与
・股関節伸展筋群:遊脚後期の減速に関与 立脚初期における骨盤の下降の予防に関与
大腿四頭筋:立脚初期の踵接地から立脚中期の膝折れの予防に関与
ハムストリングス:遊脚期全般にわたり足関節背屈位の保持に関与
            踵接地時における足関節の固定に関与
・下腿三頭筋:立脚期全般であるが、立脚後期における蹴り出しに関与
・脊柱起立筋:歩行周期全般にわたり活動し、体幹の前屈に関与
 
歩行の際に使用される大まかな筋群になりますが、
治療に伴い疼痛が軽減されると、逃避性歩行も次第に無くなります。
 
この逃避性歩行が軽減されるに従い、上記の赤字で記した筋群の使用量や使用箇所が
大きく変化してきます。この事により、患者の身体に起こる症状として「筋肉痛」がおきます。
所謂、大した事の無い症状かもしれませんが、症状改善以後、日常生活を続けていた数日後に
現われる可能性が高まる為に、治療にて悪化したのではないかと心配される方もいます。
 
では、冒頭の梨状筋症候群の患者の場合はどうなるでしょうか。
1)起床時が特に痛みが酷い為、布団から降りる前に、足を動かしてから歩行を開始する。
2)日中の活動時間帯は痛み等々が軽減される。
 
上記の2点の状況プラス、逃避性歩行を余儀なくされている患者へ治療を施し、
疼痛軽減に伴い逃避性歩行が解消されたとしたら、どのような経過が見られるでしょうか。
 
発症時期や度合い、年齢、体格、体重、筋肉量、生活環境、仕事等々でも大いに左右されて
くるとは思いますが、症状改善から逃避性歩行も無くなった1~2日後には
 
1)起床から初めの歩行に掛けて、症状軽減の為に足を動かしてからの歩行を始めても楽にならない。
2)日中の活動時間帯でも痛みが軽減されない
 
という、不安要素しか出てこない状況になる場合があります。
筋肉痛は微細ながらも筋損傷の為、動かしても楽になる事はありません。
これが1週間程度続くとどうなるでしょうか。結果的に筋肉痛が治まり、以前からの症状が
改善された場合であったとしても鍼灸治療に対しての不安しか出てきませんね。


そうです。このタイミングです。勿論、症状の度合いでも左右されると思いますが、
同じ患者でもNSAIDsが効く時期と効かない時期が出るのだと思います。
 
鍼灸の治療期間中では顕著にNSAIDsが効くタイミングが存在します。
治療から2~3日目以降の、鍼治療による筋弛緩に伴い、
左右バランスが変化した際に患側に生じる持続的な伸張により炎症性物質が発生する筋肉痛ですね。
 
上記の筋肉痛の解釈にも書かれている通り、筋肉痛は凡そ1週間内で治まります。
一週間程度経っても尚、元の症状と類似した痛みが出続けた、もしくは増強された場合は、
無効治療の可能性であった事を示唆します。恐いですね。日々ドキドキしているもんです私は。
 
と言う訳で、私なりの仮説ですが、パターン2の非炎症性の痛みを持つ患者の場合、
(恐らく、まるっきり炎症がゼロという事はないでしょうけど)
鍼灸治療時に発生する微細な炎症、及び、治療過程に於ける筋弛緩での左右バランスの変化に
より、患側の持続的伸張から発生する炎症を伴う筋肉痛にはNSAIDsが効くという考察をしてみました。という訳で、現段階でのご質問者様には、NSAIDsは無効という判断も付けられます。
 
他にロキソニンが効く非外傷性の疼痛持ちの患者が効く可能性としては、シリーズ5でも少し触れた
 「足腰が痛い!」⇒「でも動かなきゃならん!」
という、痛みに堪えて動かぬ体を動かせば、
運動生理学上、人間は症状発症箇所と同一範囲に(主に下肢外側)に、
通常時より多大な負担が掛かると思います。
このように無理に動きを取る事で、微細な筋断裂を生じるケースもあるでしょう。
この時に炎症というのは少なからずとも発症します。
恐らく、この段階でロキソニンを飲んだ方は、下肢痛が和らいだ感覚を得られるのでしょう。
 
おそまつでした
  
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 青森から鍼灸治療の意識改革を~