藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

「画像所見上は誤診ではないのだが、画像所見上と症状が直接的な因子を持つと捉える解釈は誤認であり、症状惹起の機序は不成立である」との理解が得られるまで 2


「画像所見上は誤診ではないのだが、画像所見上と症状が直接的な因子を持つと捉える解釈は誤認であり、症状惹起の機序は不成立である」との理解が得られるまで

の続きです。前項は上をクリックすればご覧になれます。
基礎と臨床の隔たりは、基礎の発展は治療と言う観点がなく、反面、臨床は治療を求め発展している。故に、時代の流れで極めて激しく移り変わり、生まれては消えを繰り返す理論を持つ生き物である。
時代の流れで移り変わる臨床ベースの理論を咀嚼し、昇華させていく「臨床→臨床」への発展型と、基礎をベースとして咀嚼し、昇華させていく「基礎→臨床」への発展型の場合では、どちらが底力があり、時代の影響を受けないかと言えば、後者になる。
糖質制限」や「無農薬」と言う概念を引き合いに出すと理解し易い。見方を変えれば、糖質摂取の概念や、農薬を使うと言う概念は、「基礎」か「臨床」かと言う概念である。別な言葉を用いれば、「製造」か「小売り」か、と言う分け方でも良い。何故、糖質制限や無農薬と言う概念が、時として有難がられるかと言う見方をしても良いかもしれない。
杜氏やメカニックは「基礎」か「臨床」かと考えても面白いかもしれない。根底的思考の土台が何方であるかで、時代は流れても影響を受けるか受けないかの差であり、影響を受ける事の善悪、受けない事の善悪はさて置き、仮にも臨床に於いての場であれば、様々な思考を巡らせ、汗水垂らして考えた手段とて一蹴されてしまう場合もあり、且つ鼻歌を歌いながら、全く異なるコースで10年20年先にでも進む事が出来る可能性を秘めている。
「可能性を秘めている」とは、世間一般では日進月歩で発達しているかのように見える医療とて、隣近所のジジババを見る限り発達しているのかと言う事、「可能性を秘めている」と言う表現は、発展途上でしかない裏返しである。勿論、医療選択は患者の自由でもあるし、医療を取り込むか否かも患者の自由である。故に痛いままでいるのか、痛みからの快方努力をするのかも自由なのであるが、仮にも後者とて快方されていないのが現状である。
医療は新しい知見を取り込んでもらう為、大々的にプロモーションを行う時もあるが、それも「基礎」か「臨床」か、と言う見方をした場合、どうしても初期はデータが少量の為、荒削りとなり、時代を追う毎に適応の幅が広がったり、副作用が追加されているものである。
かと言って、保守的が良いと言っている訳ではない。常々大きな転換を目指して動き続けているのは私とて変わらない。臨床上の大きな転換と言うのは、極めて月並みな表現かもしれないが、無駄を極力省く事が大きな転換を迎える一歩にもなる事を知る。治療はシンプルであればあるほど、データ構築が容易くなってくるからだ。
先日、侵害性疼痛、神経障害性疼痛心因性疼痛の3つの群、及びオーバーラップ型の概念に少し触れたつもりだが、あくまでこの分類分けは「基礎」であり、臨床の現場では然したる影響はない。
一般的に区分けしておいたほうが、治療上、行いやすいと言う問題だけで、単にNSAIDsかモルヒネ向精神薬か程度の差であり、よくよく考えれば、事実上、既存の現代医療的観点で捉えた分類分けでしかなく、それ以上でもそれ以下でもない。
患者にとっては、これらの分類に分けられたところで、分けられたからと言って治るものでもない。この観点で考えれば、診断されたところで治るものでもないと言う図式でもあり、仮にも画像所見上、占拠性病変が認められたとしても、それが症状としての直接的因子で無ければ、占拠性病変に対して処置したところで治るものでもない。
しかし、これらの観点で日々医療は時間が流れている実情があり、何故、このような解釈の下で臨床が行われているのかを考える必要もある。そこには、人としての随分と汚い面しか見えてこないのだが、仮にも当時は事実だとして発表されたものも、何故、そのような事実を事実としてしまったかと言う話にも展開してくる。
ストレートな表現をすれば、当時の誤りを認められないまま時代が流れれば、その時代時代での有病者が高確率で異なる事実のまま、多大な影響を身体に受ける手術や薬物に暴露される事になる。が、それすらも有病者は分からない。一応は、それが事実として存在するからであり、真実であるか否かは患者も知らなければ施行側も知らない側面があるからだ。
一緒に写真を見ながら、「何か出っ張ってるから切り取れば治るよ」と説明を受ければ、「あーそうか」と解釈するのも、また、極めて自然な事だからである。これらを踏まえ、以下の患者が現れた時、私たちは何処にどのような目的で処置をし、回復を望むかと言う事が重要となってくる。
A)age 50 sex f
3年前、肩に激痛が伴い右上肢挙上不能となる。近場の整形でレントゲン、MRIで異常無し。五十肩と言われ、鎮痛剤と湿布が処方される。1年間の患者自身のリハビリの結果か、90度程度迄外転可となる。その後、鳩尾~右頸部前面へ掛けての痛みと、上腕外側及び内側~前腕外側中部までに痛みが出るようになる。肩関節の可動域も依然変わらず。三角筋中部及び、肩鎖関節周囲に動作時痛、安静時痛、夜間痛あり。内蔵疾患なし。精査済み。
B)age70 sex f
主訴 左右腰背部痛 左右下肢後面痛 左右膝部内側痛 
既往 糖尿 脂質異常 高血圧 難聴 頻尿 下痢 睡眠障害
5~6年前より腰部、膝部夜間痛あり。起床時激痛。日中夜間VAS10⇒7程度まで改善。10m程度の歩行で両臀部後面~大腿後面~下腿後面及び側面に痺れと痛みが出て歩行不能となるも、前屈及び座位姿位を1min保持で改善。仰臥位及び腹臥位にて、右大腿後面~右下腿後面に引き攣れが生じる為、横臥位のみ。x-rayにてL4/5に若干の狭窄があるが、手術する迄もないとA整形で言われる。両膝部に顕著なOAが見られ、僅かな段差も上がれない。膝部内側とは言え、関節部ではなく鵞足部に著名な疼痛。同整形で人工関節の置換術を提案されている。過去、腰部に各種ブロック、膝部にヒアルロン酸ステロイドを受けるも著効せず受診。
C)age18 sex m
主訴 大腿二頭筋短頭第2度筋断裂
2週間程前、サッカーの練習中に相手と上半身を接触。当該部位との直接的な接触はないが、接触直後より大腿後面の痛みに伴い転倒。その後、コールドスプレーで疼痛が緩和された為、練習再開。数日間、強い痛みは伴っていたが歩行は可能だった為に気にしていなかったが、大腿後面の内出血を第三者に指摘され整形外科を受診。第二度筋断裂と診断。その後、テーピングを捲くよう指示を出され、更に数日後、低周波やホットパック等の物療を受けるも、練習再開が出来る程の回復が見えてこず、他に方法はないかと受診。
D)age15 sex m
主訴 右第2趾中足骨脱臼骨折後に生じたモートン病及び後脛骨神経炎を示唆する症状。約6ヶ月前、野球の練習中にスパイクで踏まれ、第2趾中足骨脱臼骨折。ギプス固定。骨癒着確認後、練習再開。若干の外方転移が第2趾中足骨に認められる。数週間後、第2趾、第3趾と下腿内側中部(患者が示す部位は内果から腓腹筋内側頭に掛けて)に痺れ。モートン病及び後脛骨神経炎を示唆するTinel兆候。
E)age 60 sex f
主訴 肩こり
発症時期不明。僧帽筋上部繊維周辺に強い症状を自覚。業務時間の経時変化により、締め付けられるような痛み、及び冷様感が肩背部広範に自覚、両側頭部の頭痛、吐き気、めまい、両前胸部から手指に掛けての痺れ。小休憩時の姿位変化にて僅かに改善。湿布が手放せなかったが、光線過敏症を友人に教えてもらってから、怖くて湿布が貼れなくなり、他に手段はないかと受診。肩関節ROM制限なし。
F)age 30 sex m
主訴 アクセレーション期に痛む右肘痛
既往 右棘上筋腱部分断裂
現役引退後も社会人野球に所属していたが、数年前より投球回数に比例し肘の内側が痛むようになる。医師からは野球肘と言われ、ステロイド注射を数回受ける。他、湿布と鎮痛剤を処方されているが、効果を自覚出来ない為に受診。部分断裂箇所に今は痛みなし。右肩甲上腕関節前方下方転移が認められる。要はルーズ。神経障害、肩関節ROM制限なし。
G)age 60 sex m
主訴 右下腿裏の痛み
3年程前より長期座位姿勢からの歩行開始時より右下腿裏全般が痛むようになる。整形でMRI撮影をした結果、L5/1の椎間板ヘルニア(後方脱出)が認められるものの、異常箇所と発症箇所の整合性が取れないという事で、観血的治療及び保存療法は見送り。様子見となる。
例えばA)の患者の疼痛部位を見れば、鳩尾~右頸部前面へ掛けての痛みと、上腕外側及び内側~前腕外側中部までに痛みが出るようになる。肩関節の可動域も依然変わらず。三角筋中部及び、肩鎖関節周囲に動作時痛、安静時痛、夜間痛であり、これらのファンクショナル且つ安静時痛等の類、及び発痛部位に対しての由来を、何処と見て、何処を治療するかになる。
腕を揉んでも肩を揉んでも、まして仮にも腕や肩に針を刺しても治らない事は現場に出ている人間であれば直ぐに分かると思う。要は、既存傷病名を借りれば頚椎症性神経根症であり、椎間孔狭窄に伴う神経根部のインピンジメントにより急性憎悪する好発症例でもある。そうなると、処置する部位は見えてくる。
が、1つ問題がある。多くの患者は「肩と腕が痛いんだから肩と腕に針をしろ」と言う術者との心理的なギャップが生じる。仮にもそれで改善速度に変化するのだとしたら別だが、変わらないのだとしたら、それは無駄治療になる。無効治療ではなく、無駄治療と言う厳しい評価しか出来ない。それが「基礎」か「臨床」か、別な見方をすれば患者心理を満足させる為だけの「サービス」か。と言う話に帰結する。
ではこれを踏まえてB)も見てみよう。両腰部、両下肢、両膝内側関節裂隙の痛みであり、この患者に対しては両下肢や両膝内側が発痛部位だからとて、発痛部位に対しての処置で改善速度に変化が求められるかと言う問題である。他の症例とて同様であり、発痛部位は原因部位ではないものの、仮にも何かしかの処置をすれば発痛の有無問わず、末梢循環の改善には寄与出来るかもしれないが、それは臨床上に於いては意味のない事であると言う解釈の仕方である。
ではC)はどうだろうか。一見、受傷部位も明確な症例であるが、如何に早期回復を求めた治療を考察していけば、罹患部位に答えがない事を知る。D)~G)に至るまで、全てそうなのである。一見明確な受傷部位にも答えがない事を知る事が出来るだろうか。それは「基礎」的な解釈では受傷部位、罹患部位、そして処置部位と言うのも簡便に見えるかもしれないが、「臨床」となると、話は又、別になる。
踏まえなければならない考え方が臨床上に於いては重要になる。患者は「治る為にいる」と言う事であり、痛い場所なんて患者が一番知っている事であり、痛い場所に処置してもらう事が目的なのではなく、治る場所に処置してもらう事が目的なのであり、患者が求めているのは、基礎ではなく臨床である。
実は、このような非常に回りくどい話を何故しているかと言えば、治療内容を極めて削ぎ落とし、データを構築し続ければ、凡ゆる治療手段や保存的治療の脆弱性が見えてしまう。不誠実な書き方になるが、「それ、意味ないよ」と言う事であり、それは針治療の処置部位云々に限った話ではなく、凡ゆる改善を望む為の運動や体操だけでなく、アカデミック的に構築されているリハビリや電療、薬物治療や手術等々含め、見えてくるものがある。
しかしながら、真実はそうであっても、現実はそうもいかない世界でもある。何故なら、臨床はビジネスとプライドが凌ぎを削っている世界である以上、白も黒に変えられる。
神経根に輪をかませ、下肢痛が生じたら、否、脱分極を起こしたら、それが本当に輪をかませた力価に伴うものだったのか。考察しなければならないのは、そのような根っこからの問題であり、基礎がぶれなければ凡ゆる応用も簡便に可能になると言う世界も又、興味深く面白い。
 
参考関連 
「傷病名と治療がイコールで結ばれない原因」
「当該患部の栄養支配領域の確保」「症状発症部位の神経支配領域の確保」「発症患部に於ける疼痛等より発生したと推測される交感神経系の亢進による血管収縮箇所の開放」「kinetic chainを基礎とする維持・確保を望む広域な刺針箇所の選定」
ペインフルアークと肩峰下の疼痛由来は肩関節外転時に於ける狭小化に伴うインピンジメントとして再現性を望む神経学的検査上での所見であり、処置対象部位としては、其の通り肩峰下滑液包炎と診るも良し、腱板部へ走行する棘上筋への処置として診るも良し。しかしながら、発症時期という「時間」を鑑みて各種神経学的検査を行う場合、臨床的意義としては相当低いものばかりである事が分かる。これならば、患者に普段は如何様な姿位が楽であり、如何様な姿位で憎悪増強するかをチェックする事のほうが鑑別は付きやすく、極めて治療精度や治療成績も上がっていくものである。
臨床上の感覚的なものかもしれないが、発症後2week以上経過した諸症状の場合、先のペインフルアークやドロップアーム、ダウバーンとて、仮に陽陰性関わら臨床上の意義は低下していく事が分かる。それを証拠に治療を通してVAS値の変動を患者に観察してもらう事で一層根拠は高まるものであり、棘上筋に処置した場合であれば、VAS値10⇒8程度で改善自覚期間が1~2日だとしよう。これでは基本的に無効治療と呼ばざるを得ない。では今度は棘上筋を支配する、より中枢部は何処かを鑑み処置をする事でVAS値が10⇒5となり2~3日後以降も軽減したまま日常生活に戻れたとしたら、答えは棘上筋には無い事が分かる。受傷初期や疼痛部位等々に関して誰がどのような視点で見ても明確な部位であったとしても、受傷時期が中長期化した場合、得た傷病名に沿った治療内容ではラチが開かないという事である。

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