藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

針治療を受けられる皆様へ



【お願い】
医療機関を経由し、当院を受療される方へ。外来のみでの治療の他、入院、手術等の治療を受けられた場合、ある程度の検査結果を保有されていると思います。レントゲンやCT、MRI画像等を保有している、及び、診断書や入院に係わる傷病名、入院時の治療内容、術式等の計画書を保有されている場合は、当院へ来院される際にお持ち頂ければ、針治療を行うにあたっても重要な情報になります。特に、各種腰部脊椎変性疾患に関しては、器質的異常の有無が針治療を行うにあたり安定的に回復を運ぶ為の重要因子になります。他、針治療の期間中でも、途中で思い出した事がありましたら、どんなに小さな事でも構いませんので教えてください。出来るだけ多くの情報を頂ける事で、安定的な回復を針治療で得られます。ご面倒ですが何卒お願い致します。
 
常に負担に曝される足腰に症状(痛み・痺れ・皮膚感覚がおかしい・長く歩けない・力が入らない等など)を抱えている場合は、注意事項や禁止事項を記述した用紙を治療時に差し上げてます。主に整形外科領域疾患となる、腰部椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症・腰部分離、すべり症・他、診断名は付かずとも、腰椎由来で足腰に症状を出している方・各種腰椎変性疾患に対しての術後後遺症(除圧術・固定術・除去術を行っても改善が見られない場合)等と言われた方。及び、股関節痛、膝関節痛、足関節痛患者さまも該当します。

【針治療の作用機序】
針治療の根本的作用を幾つか提示します。針を刺すという行為に伴い、東洋医学的観点、現代医学的観点問わず必ず生じうる生理的現象があり、これらの現象を以て、様々な症状と対峙する事になると当院は考えています。様々な症状の発生要因は、血流動態による異常が生じた結果であると捉えられ、発生部位により自覚的症状は異なりますが、急性的、及び慢性的に症状として現れます。
 
針治療は刺傷を起点とする動脈血の強制流入にて、自身が保持する恒常性による刺傷再生時の経時変化を利用します。この事により、損傷部位の低酸素解除、炎症拡散による疼痛除去、柔軟性保持、柔軟性確保、柔軟性惹起、柔軟性維持、神経損傷の回復(部位問わず、観血的治療が必要でないと判断された程度のneurapraxia)、椎体付近(神経根・馬尾・椎間孔・後根神経節)の炎症拡散、及び低酸素解除による神経症状の改善、各種自律神経症状の安定化、脳内血流量増大による、脳血管障害後後遺症や、各種中枢神経疾患由来の諸症状、高齢に伴う脳血流量減少から派生する脳神経系由来の症状に対して回復を求めていきます。
 
尚、針治療問わず全ての外的刺激を経て望む治療手段に対しても同様な事が申し上げられますが、治療直後に症状が一時的に無痛となる鎮痛作用(ゲートコントロール理論)に関しては、当治療院は症状改善の評価の対象としておりません。あくまで純粋な針治療の作用時間を経てからの症状変化の推移を評価対象としています。
 
【基本的周知事項】
当院に於ける針治療は、患部血流量の増加・維持・確保を目的とし、経時変化に於ける組織回復を目的としています。全身状態や症状により治療内容は異なりますが、主に以下の4つ指針内容を1回の治療毎に用いていきます。「1)当該患部の栄養支配領域の確保」「2)症状発症部位の神経支配領域の確保」「3)発症患部に於ける疼痛等より発生したと推測される交感神経系の亢進による血管収縮箇所の開放」「4)kinetic chainを基礎とする維持・確保を望む広域な刺針箇所の選定」です。
 
針治療後、栄養源となる動脈血が流入した筋細胞は弛緩が及ぼされる事になり、患部及び直下を走行する血管の拡張や、弛緩過程に伴う筋細胞の容積変化にて、症状が重い方、症状が長期化している方、首や腰の神経症状が原因で指先や足先まで症状が出ている方ほど、治療後から1~3日は筋肉痛のような痛みが出る場合があります。針を刺すという行為に伴い、細心の注意は払っておりますが、まれに外出血、内出血が生じます。外出血の場合は、ひと拭きする程度で止血が完了する程度の出血量です。内出血が生じた場合でも1週間程度でキレイに治ります。
 
血管絞扼作用を招くコルセット等を日常的に取り入れている場合、及び、慢性期にも関わらず血管収縮作用を有する行為(血管収縮作用を招く薬物使用等)を日常的に取り入れている場合は、治癒の遅延を招く可能性が高くなりますが、コルセット等の場合は、急に外す事での不安定性も高まります。その場合は、急に外したりする事なく、症状改善に応じて外すようにして下さい。足首、膝、股関節、腰部に症状を抱えた状態での歩行は、各関節に大きな負担が強いられ、各関節の摩耗及び炎症が引き起こされる可能性も懸念されます。可能な限り、ステッキを付く等の対策をして、関節への負担を減らすように努力して下さい。

【A)
発症から時間が経っていない】
急性期、急性憎悪期、炎症拡大期とも言われる、受傷間もない時期の事です。受傷時の損傷の度合いにもよりますが、患部では大なり小なり炎症が生じ、経時変化により炎症が拡大していく恐れがあります。この炎症の拡大を極力抑える為には、身体を動かす、温める、揉む、ストレッチや体操をする等の行為は控え、症状の憎悪を防ぐ事が肝要です。痛みを無視した行動を取り続けた場合、損傷部位が拡大する可能性が高まる為、結果的に自覚症状も強くなり、損傷部位の炎症が拡大拡散された分、炎症が引くまでの時間も掛かります。可能であればアイシングを行い、患部の安静に最大限の努力を払って頂く事で、早期脱出を求められる事が出来ます。発症箇所によっては安静時の姿勢も重要になってきます。
 
【B)発症してから時間が経っている(頸部、腰部神経由来症状含む)】
頚椎や腰椎(まれに胸椎)神経由来症状を抱える方で、且つ時間が経っている場合、脊椎から腕や脚へ伸びている根っこの周辺部分で低酸素状態と炎症状態が繰り返されている悪循環の環境下により、特異的な症状が出ています。例として、腕や足への痛み・痺れ・脱力・触圧覚異常・熱様感・冷様感などが代表的な症状です。このような状況が生じ続けていると推定される症状に関しては、A)と同様、温めず、揉まず、ストレッチや体操を行わず、安静にして頂く事で、早期回復を望めます。筋肉由来による症状(外傷性要素含む(打撲・挫傷・強揉み・手術痕・火傷))が明確な場合、運動等で血流動態が良好となり症状改善へと繋がり易いのですが、神経由来症状は、筋肉由来と同様、運動事で血流動態は良好となり、一時的に症状が改善したかのような自覚は得られるものの、神経及び脈管に損傷を加え続けている状態も示唆されます。その為、「損傷>回復」の図式が成立し易く、運動後に症状憎悪を引き起こすと共に治癒遅延の可能性が高まります。
 
【C)発症してから時間が経っている(筋肉由来症状)
主に外傷(打撲・挫傷・強揉み・手術痕・火傷等)を起因とした受傷箇所が明確な筋肉損傷により、症状が長期化している方。当初はA)と同様、患部に炎症が生じていたものの、炎症期が過ぎ、低酸素状態が持続した事による筋萎縮に伴い、患部の血管絞扼、及び神経絞扼が招かれた状態です。このような症状を持つ方に関しては、A)とは逆に、患部を温めたり、摩ったり、無理のないストレッチや体操を行う事で回復が望めます。但し、症状の長期化したC)の諸症状は、B)との混在型が多く含まれてきます。B)+C)の混在型の場合、日常生活時に於いてはB)の生活様式を優先させる事で症状は安定的に回復していきます。
 
【D)自律神経症状がある
自律神経症状とは、一般的には内臓疾患が除外されている事を前提とした、頭痛、原因不明の視力低下、異常発汗、ホットフラッシュ、めまい、耳鳴り、難聴、立ちくらみ、胸の締めつけ、喘息のようなセキ、飲み込みづらい、喉の違和感、不整脈、息苦しさ、季節に関係ない手足の冷え、下痢、便秘、生理痛、生理不順、勃起障害、慢性疲労睡眠障害、うつ症状他、各種精神疾患様症状を言います。この他にも、数限りなく症状はあり、世間一般では「自律神経失調症」と言われる類に含まれる症状です。これらの諸症状に関しては、B)の原因を由来とした諸症状であると捉えられ、治療実績も良好です。上半身の自律神経症状の場合、主に脳内血流量の増加や維持、確保を目指す事での改善、下半身の自律神経症状の場合、主に腹部や腰部、下半身の血流量の増加や維持、確保を目指す事で改善が得られ、B)やC)の整形外科領域の症状よりも早期の回復が得られています。尚、これらの諸症状は冒頭でも書いた通り内臓疾患を患った場合でも発症する可能性は大いにある為、症状の軽重問わず、精密な検査を受けられ、不安要素を払拭された後に針治療を受けられる事が心理面に於いても安心出来るかと思います。
 
【E)脳血管障害後後遺症を代表とする中枢神経系疾患を抱えている】
脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血等により、脳神経細胞の栄養供給遮断による死滅により後遺症を呈している方、向精神薬の長期服薬等による脳神経伝達物質の不全状態により脳神経系由来の症状を呈している方。最近は発症から時間が経過した場合でも、死滅した脳細胞も回復する事が最新の研究により示唆されている状況により、過去から現場を通して針治療による脳血流量を増加、維持、確保し続ける事による、所謂「脳卒中後後遺症の症状改善」に対しての治効理論の整合性が取れてきています。全ての方に対して良好な結果を残せるとは限りませんが、時間を掛けて脳血流量の増加を目的とする治療を行い続ける事で、飛躍的に症状の改善が見られる場合もあります。各種脳神経が一度は栄養遮断により死滅したと思われる症状に関しても、根気良く治療を続けていく事で改善していく場合もあります。症状も軽度~重度まで非常に幅広い為、一概にこの場では書けない部分もありますが、QOLの向上が望まれ、日々のリハビリの効率性、円滑性が高まる事が期待されます。
 
【F)脳血流量減少に伴う高齢特有の諸症状を抱えている】
加齢に伴い、運動機能や生理機能、神経機能は著しく低下していきます。針治療の一般的なイメージは末梢神経系由来となる運動器疾患に効果を示すと捉えられがちですが、これらの症状自覚に至る経緯は、末梢神経系領域の患部が負荷の蓄積により血流量が減少した事で発症したに過ぎません。中枢神経系となる脳神経の機能異常に関しても同様であり、D)及びE)と共通する話しにもなりますが、何らかの中枢神経系疾患に暴露されなくとも、高齢という必ず通る逃げ場のない疾患も脳血流量の減少は生じ、各種脳神経系由来の症状を発症する事はご存知の事かと思います。これらの症状は多岐に及び、嗅覚、視覚、聴覚、歩行能力、呼吸、嚥下、排尿排便異常、高齢特有の振戦、認知症様症状等、挙げればキリがありません。これらの諸症状に対しても、脳内血管の拡張を求め、血流量の増加と維持、確保を針治療で処置し続ける事により、様々な症状が改善~消失していきます。末梢神経系由来の症状とは異なり、中枢神経系となる脳や脊髄の血流量の増加に伴う各種細胞の賦活化や再生に関しては、やや間接的な治療になる為、場合によっては症状の安定化には時間が掛かる場合もありますが、良好な結果を示しています。
 
【G)僅かな環境変化や疲労が痛みに直結していると自覚している】
寒冷、不安、恐怖、孤独、疲労、悲しみ、怒り、苛立ち、不眠等のネガティブな状態は、自身が抱える諸症状に対しても鋭敏に反応し易くなるものです。このような状態を痛覚閾値(疼痛閾値)の低下と言います。何かしかの症状を抱えていれば、自己の心身の疲弊は避けて通れず、結果的に閾値の低下が招かれるという悪循環は致し方ないところではありますが、自己の抱える症状や情動以外にも、外的要因で閾値の低下を招いてしまうケースも多く散見されます。最も多いケースを幾つか挙げますと、アルコール多量摂取による疼痛回避、タバコ、強い圧でマッサージや指圧を受け鎮痛作用を求め続ける行為、慢性期での漫然としたNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の使用、向精神薬及びオピオイド系鎮痛薬の長期服薬は急激に痛覚閾値を低下させ続けます。特に、中枢神経系で鎮痛を求む事になる向精神薬オピオイド系に関しては、長期服薬による耐性の獲得から派生する常用量離脱症状の発症だけでなく、断薬後に自身の能力で即時的に各種脳神経伝達物質を生成分泌出来ない状況となり、その結果、薬物を止められず、経時経年で増量させ続けなければ過去と同一の鎮痛作用を求められない状態となる方を多く見掛けます。結果的に薬物中毒状態となり、生涯に渡り薬物の調整無しでは生きていけない状態に陥る人も少なくありません。こちらをご覧になり、該当していると思われた方は、早期段階で薬物から手を放す事を推奨します。針治療は痛覚閾値の上昇を求められる治療手段でもありますが、継続的に漫然と痛覚閾値の低下が招かれる身体環境を薬物で形成し続けた場合は相反し続ける状況になり、症状改善の速度は急激に低下します。医療選択は自由意志ではありますが、相反する作用を求め続けても不利益を被り続けるだけあり、メリットが生じる事はありません。このまま薬物の調整と一生涯付き合う覚悟なのか、薬物を手放す覚悟を決めるのかを考える良いキッカケかもしれません。尚、薬物の減~断薬に関しては処方医とご相談下さい。
~針治療の開拓と発展に向けて~
 
保存的治療という言葉を聞くと、如何にも消極的な治療手段であり、妥協策の果て、諦めの中での姑息的治療手段とも捉えられがちです。残念ながら、針治療も同カテゴリ内に置かれ、手術のようにビジュアルが派手派手しくもなく常に地味な時間が流れている為、脚光も浴び難い世界です。しかしながら、治効理論の原点となり、症状発症の原点ともなる血流動態の異常から生じる諸症状と直接的な対峙が出来る手段として、針治療以上の存在は無く、幾らでも可能性を大きくする力を持ち合わせています。
 
~保存的治療の垣根を超越する針治療~
 
手術以外の治療手段を保存的治療(保存的療法)と呼称し、認知度の高い保存的治療の内訳として、薬物治療、理学療法作業療法、食事療法、心理療法柔道整復術等が存在し、針治療も保存的治療のカテゴリに分類される中、外科的侵襲能力を持つ針治療は、他の保存的治療手段と比較しても類を見ない積極的治療手段に位置します。現在、針治療は世界各国で導入され、様々な治療理論にて研究~臨床が行われております。術者側の根本的観点として、経絡経穴を標榜する東洋医学的観点を持つ一派、現代医療が標榜する病態理論から刺針点を考察する現代医学的観点を持つ一派の2大派閥が柱となります。更に、臨床現場を通して構築された個々の術者の理論は根を伸ばし、独自の身体観へと発展を遂げています。
 
皆さまが見慣れている整形外科や内科(所謂、医科)に関しての多くはガイドラインが存在し、保険病名に基づいた上で全国一律に治療が受けられます。しかしながら針治療にはガイドラインが存在せず、派閥毎で治療法は類似してくるものの、術者側の経験則から構築された治効理論や病態把握が異なれば、医療機関で告げられた疾患名に対しての解釈、術前術後の説明、治療後の経過、症状の改善速度は異なります。且つ、個々の術者が標榜する理論に応じた刺針が施される為に、患者の体内へ刺入される針の深さや太さも異なってきます。昨今ではホームページを持つ治療院も多い事から、術者毎の得意分野や治療内容も提示され、患者側が治療院を選定する場合でも、情報を得られやすい時代になったと思います。
 
原則的に針治療はどのような診断名が付いていようとも、命を脅かす疾患外に関して適応します。患者依存による内的外的因子問わぬ、基礎身体適応能力を超過及び超過し続けた末に、発症した諸症状との対峙と言えば分かり易いかもしれません。器質的な異常に発展するのはその結果であり、狭窄やヘルニアのような脊椎変性疾患の類の小さな話しでなくとも、骨折とか肉離れが分かり易い例です。
 
症状自覚は患者個々が抱える閾値が存在する為、治療対象となるか否かは常に患者依存であり、何者も病人であるとレッテルを貼る事は医療者としてのエゴであり、患者が症状を訴えない限り治療対象とはなりません。針治療に於ける初発の来院患者層というものは、激烈な痛みを抱えた時や、何処に行っても治らなかった時、というのが針治療を受療する対象となる傾向として高いものです。

急性憎悪期は情報伝達にワンクッション挟む為にやや厄介な面もありますが、針治療に来る人は大体、暫く痛くて痛くてどうしようもないという人が来る所です。既存患者が別件で症状を抱えた時は別で、針治療という意味や、症状惹起の意味を一度でも知れば、一般的に蔓延している薬物治療の無意味さを知る事が出来ると同時に、更なるパフォーマンスアップを獲得する事が可能である事を既知しているからです。一度でも針治療を受け、症状改善という経過を知る事が出来れば、その逆となる損傷過程も細分化されて自覚出来るようになり、再発率は低下するメリットもあります。
 
その意味を一番知っているのはプロスポーツや、それに準じる方々ではないでしょうか。彼ら彼女らは基本的に薬物に対してはアンチ傾向である事は皆さんも知っていると思います。大きな大会はドーピング検査がありますし(勿論全ての薬物が使用不可ではありません。時折更新されますから知らない人が見ても為になります)、薬物使用による機能上の鎮痛は得られても、機能面での低下や薬物使用による肝臓及び腎臓での代謝時の負担等々を鑑みれば、全体的なパフォーマンスが低下する事も知っています。常に高い目的を見据えて限界を超えた身体能力を発揮させ続けている方々は、幾らでも身体は壊します。損傷度合いは大なり小なりかもしれませんが、何れ位の損傷をすれば、何れ位の回復期間が必要であり、何れ位の期間を経れば以前の状態まで戻れるかも知っていますし、これらの壊れた身体が薬で「治る」とも思っていません。
 
外的内的問わず、損傷を起因とした整形領域疾患と自律神経系の異常は常に付いて回ります。一度自律神経系の異常が生じると、スポーツをしていない時も諸症状を自覚し続ける事になる為、自律神経系症状からメンタルが壊れる事もあります。では、これらの諸症状に対しても薬物を使っても良いかと言ったら、それも又出来ません(したくない)。その為に、常に高いパフォーマンスを発揮し続ける方々というのは自分自身をよく知っています。常に栄養摂取面に於いても気を配っている方々は回復も早いのですが、機能異常に対して更なる回復を求めた場合、針治療がファーストチョイスになったのは、恐らく私以上に身体機能を熟知している、自身の身体をフルに使った職に就かれているからこそ故なのでしょう。
 
では、当院の身体観等含め、考え方を僅かですが触れたいと思います。針治療は、感染症や内臓疾患を除いた様々な症状に適応し、主に整形外科領域疾患、自律神経症状に対し圧倒的なパフォーマンスを示し、他の追随を許さない程の作用を上げ続ける事が可能です。年齢や受傷時期、症状の内容、症状発症箇所、生活様式、労働環境、栄養摂取状態、薬物治療の有無及び服薬期間に於いて治療回数や治療期間は変動致しますが、針治療を受療されながら、生活様式や栄養面の見直しで相当の回復と好循環維持が見込まれ、過去と同一量、もしくは同一量以上の負荷を身体に掛けた場合でも、症状として自覚する事なく日常生活を過ごせるようになります。手術の提案をされた各種疾患に関しても、針治療にて回避可能となる疾患も多く、既存医療の概念を払拭出来るキッカケにもなります。
 
一時的な疼痛緩和や対処療法的手段は治療と考えておらず、有益な結果を患者に与えているとは考えておりません。症状を抑えるだけの姑息的な治療手段ではなく、症状を消滅させる治療方針を常に考察、検討します。発症部位ではなく原因部位にアプローチを行い続ける事で、経時変化による症状の収束を実感出来る理論を組み立てる事で、患者自身が日常生活でも負荷動作、負荷姿勢の回避姿勢を形成可能となる為、治療時間外に於ける負荷も軽減され、治癒速度は向上していきます。現行の患者の身体状態に依存される針治療という手段は、患者個々により治療時の身体状態は異なる為に杓子定規な説明は出来ませんが、過去から現在に掛けての栄養摂取状態、服薬状況、セルフケア等々も見直しながら、回復過程に於ける阻害因子や悪化因子を内外から限りなく排除していく事で大きな成果に繋がります。
 
そして針治療は鎮痛作用も求められます。特に筋由来疾患を発症し易いスポーツ選手に関しては、鎮痛作用を求める針治療というのもケースバイケースで必要です。見方を変えて、鎮痛作用のメリットとは何でしょうか。それは、「目前に控えている最大の目的に対して、全てを犠牲にしてでも勝利を掴み取る時だけ」と捉えています。しかしながら、鎮痛を求めた結果、他のものが犠牲になる事も知らなければなりません。痛みを感じなくなれば、損傷度合いは激しくなり、各関節の摩耗から派生する炎症や神経症状の惹起、そして回復迄も時間が掛かります。これらの予後の犠牲を理解しているのであれば、鎮痛作用というのは求めても良いかもしれませんが、但しそれはあくまで超限定的な患者に対してのみであり、その鎮痛作用というものを一般的に日常生活を送る方々が漫然と薬物にて取り込んでいる場合、天秤はデメリットに傾き続ける要素しか見えません。
 
例えば、先ほどスポーツ選手のパフォーマンスアップと針治療に対して書きましたが、一般的な日常生活を送っている方々に例えたら如何でしょうか。腰を反らせる度に下肢に激痛が走る人がいたとします。このような方々は洗濯物を干せません。それもパフォーマンスの低下です。肩が上がらなくても洗濯物を干せません。パフォーマンスという言葉を使えば如何にも競技仕様に聞こえるかもしれませんが、日常生活時に於けるパフォーマンス性の向上は、全ての生産性向上に繋がるというの事も知っていて損ではありません。干すのを諦める。それも1つの選択かもしれませんが、日常生活時に於けるこれらの機能低下は、全機能低下にも繋がる状態を示唆します。
 
損傷する度に炎症は大なり小なり生じます。微細な損傷(炎症)は血液検査では数値異常を示さないでしょうが、その度に湿布を貼って解熱鎮痛剤を飲むという姑息的手段を用いて凌いでいれば、いずれ気づいた頃には各種関節の変形が待っていますし、変形が一度生じれば、人一倍、症状自覚速度は早まります。そうならぬ為にも痛みに気づく事は大切な事ですし、痛みが出た時の対処方法を知るよりも、痛みの出ない身体環境を早期に獲得しておく事が、中長期的将来に渡り多大な恩恵を患者自身に齎してくれる事になります。洗濯物を干すプロを目指す事も大切です。
 
~針治療と高齢社会~
 
加齢は全ての機能を否応なしに低下させます。全機能の低下を示す老化に関しても、何処までパフォーマンス性を向上させるかが大きな課題にもなってきます。高齢だからと言って、身体機能は衰えていくかもしれませんが、精神機能は熟成されて発展している事はご存知だと思います。高齢患者の一番の哀しみや苦しみは何でしょうか。
 
身体機能と精神機能のギャップなのではないかと思います。「動きたい気持ちはあるのに体がついていかなくてね」という状態の事です。身体機能が衰えていれば、外出もままならず、家に隠るようになればメンタルも壊れる可能性もあります。その為には、常に高い身体機能を保持して自由の効く状態にしておかなければ生きながらにして自身の肉体の衰えに恐怖を覚え続ける事にもなります。今の医療は患者を「生かす」事は出来ますが、患者を「活かす」事が出来ているでしょうか。それが今後の高齢社会の課題にも繋がるのですが、現行の薬物治療一辺倒の姑息的手段が蔓延している限り、より一層の内臓負担や各種易損傷から派生する機能低下が見込まれ、メリットは見えてきません。
 
高齢層と針治療。老化と針治療の相性は非常に良く、若年層の場合は「回復」と「損傷」のバランスは比較的「回復」に傾き続ける為に、予測以上の成果は上がる場合も多いのですが、高齢層の場合、日々「回復<損傷」に傾き続けていく為、針治療を行う度に1回1回明確な回復傾向を示し、針治療の効果というのを掌握し易いくもあります。針治療は命を脅かす疾患に対して適応しないと冒頭で書きましたが、老化という病気は寿命に向けて一歩一歩進む避けられない病です。

寿命は日々のQOL向上でグンと伸びていく事を中長期的に治療を行えた患者群を見ていると常に思います。寝たきりから車椅子へ、車椅子から歩行器へ、歩行器から杖歩行へ回復を遂げていく姿は患者だけでなく、患者家族、患者の周囲の方々の人生すら明るく変えていきます。他、先方で「歳ですね」で話しが終わっている為に覆すのが簡単だという理由もあるでしょう。どうでも良い病名を沢山抱えている場合は、常に病名が先行してしまい、病名に責任を押し付けたがるのは目に見えていますから厄介な部分はありますが、患者が「治してやる」という強い信念さえあれば何とかなるものです。しかしながら周りを見渡してみればどうでしょうか。症状があっての病名である事を患者側が理解していれば薬を飲むだけの毎日で終始せず、症状を打ち消す為にはどうしたら良いかというのを患者自身も個々で考察するものですが、如何せん患者自身の努力や積極性を奪っているのも又、病名であり薬なのかもしれません。
 
猫も杓子も鎮痛薬と向精神薬を飲んで治りませんし、寧ろ誰もそのような治療手段では治りません。抹消神経系のみならず中枢神経系へのダメージが免れない状況を医療が作ってしまっている状況です。その為、気づくのは個々の患者であり、医療からの脱出の架け橋を私達が早期で作らなければならないのです。
 
今後、人口減少と共に高齢社会は益々進み、高齢である事に責任を逃れていた「高齢であるが故の疾患」の数々に対しても、私達は逃げ場の無い状況に立たされます。針治療の最適応となる整形外科領域に関しては、主に経年変化に伴う椎体の自重圧壊から派生する、神経及び脈管由来の諸症状を抱える患者群は急増します。今現在も積極的に観血的治療を施す医療機関も多々ありますが、如何せん脊椎変性疾患を中心とした観血的治療の数々は術後成績が芳しくなく、再発症率も高度を示し、術後患部及び、上位椎体の不安定性が経時変化で惹起され、より一層の逃げ場のない神経及び脈管症状を呈する患者が後を絶たない状況にもあります。

且つ、鎮痛剤を処方しながらの歩行訓練等が一般的に浸透してしまった事により、患者が気づかぬ内に更なる各関節の摩耗より変形の進行、及び、鎮痛剤の長期投与による肝機能低下の懸念は不可避な状況であり、今後の対高齢者医療も再考察しなければならない時代となってくる中、薬物に依存しない保存的治療が評価される時代になってくるものと思われます。
 
人は生まれた時から老いは始まり、様々なアクシデントを経験します。そのアクシデントの一つが「痛み」です。痛みこそ多くの随伴的合併症を患者周囲に生じる事になり、自身の肉体や精神のみならず、社会、経済、時間、家族、全ての接点に歪みは生じ、症状悪化の一途を辿った場合、負のスパイラルは暴走し始め、周囲を大きく巻き込みます。これらのスパイラルの根源を断ち切るのが医療となるのかもしれませんが、現行医療は患者を活かす医療かと問われれば、諸手を挙げて賛成は出来ない状況です。PEGやIVHで平均寿命は伸ばす事が出来たとしても、健康寿命は何処まで伸ばす事が出来るでしょうか。年々増え続ける医療費は健康寿命と比例する事もなく、国の財政は単なる食い物と化しています。
 
人は生まれた時から老いは約束されています。老いを約束されている以上、今からでも良い老い方を模索する必要はあり、患者個々が医療に対しての考え方を今から見つめ直す必要はあります。
 
「最期まで2本足で歩いて」というようなキレイ事を言う事は出来ません。人は途中途中でアクシデントを重ねる生き物であり、歯も無くなれば、足も動かなくなり回復不能となる場合もあります。まして、皆と同じように目や鼻や口や耳や手足が2本ずつ無くても、大切なのは日常という泥臭い毎日を送る中での自己の確立であり、自己の意思を自己が尊厳する事でもあります。日常には多くの誘導があり、多くの誘導を自身の意思で取捨選択出来る人間が、最期まで幸せに生きられる時代です。
 
~標準治療が薬物治療であるが故の、発展の乏しい痛み治療の世界~
 
何故発展が乏しいのかを考えなければなりません。種々検査で異常が無ければ「心因性」「気のせい」「年のせい」「精神疾患」として心療内科や精神科にバンバン送ってしまったのも1つ原因として挙げられます。治るものも治らない。治るものに対して匙を投げた。治る患者に対して薬漬けにした。病気のせいにした。病気と対峙する力を患者に対して求めなかった。そのような甘甘な繰り返しが今なのです。仮に経営的な視点で見たら、患者の言いなりになって薬を出していれば喜ばれるでしょうし、良い先生にもなれるでしょう。眠れなければ睡眠薬でも増量すれば診察は終われます。たったそれだけの話しです。

何処の世界でも可視化が可能な検査に於いて異常所見が無ければ対処手段が見つからないのですから匙を投げるしかありません。かと言って、これらの患者群に対して向精神薬を飲ませる事が治療なのかと言われれば、より一層のリスク向上という結果しか訪れません。私は絶対に「心因性」「気のせい」「年のせい」「精神疾患患者」と言われた群から逃げなかったから、今の構築と発展があると言っても過言ではありません。逃げなければ絶対に前進出来ます。針治療の業界は達成出来るはずです。医療はこれらの患者に対して匙を投げているのですから寧ろ都合は良いのです。
 
冒頭でも書いたとおり、死を示唆する疾患以外の多くの諸症状が針治療の適応となります。では、これらの発症要因を探求する必要性があるのですが、以前にも書いたとおり、日常生活を送っていれば必ず人間という生き物は損傷する、損傷し続ける生き物です。疼痛自覚の閾値や個々の回復力は異なりますので、どのタイミングで症状として自覚するかは患者によって異なるかもしれませんが、損傷患部領域に偶然居合わせた血管や神経、及び神経機能等により症状が異なり、種々病名が下されているというのが針治療「しか」行っていなければよく分かります。
 
さて、多くの方も既知されている事と存じますが、医療は不安と依存で形成されています。不安を与えられ、依存を形成されたくないという自己の確立があれば、人は学び、人は知恵を付け、対策を練るものですが、「痛み」に関してはどうしても第三者にコンサルトしてしまう生き物です。医療化の弊害故かもしれませんが、其れ程迄に痛みというのは心身を蝕み続る証拠でもあり、逸早く消してしまいたい忌々しい存在でもあるのです。しかし、「痛み」は可視化も客観的評価も出来ない、患者自身の体内で巻き起こっている事象であり、如何様にも第三者は責任を押し付ける事ができ、如何様にも責任を押し付けられる世界である事を再認識しても損はないでしょう。患者の痛みは誰にも分からないのです。故に、全ては推測であり仮説の世界で治療が施され続けている事を知らなければなりません。
 
痛み治療に関しては多くの理論が存在します。多くの理論が存在するという事は、全てが仮説の域を脱していない証拠であり、私の標榜している理論理屈も既存学問から抽出して構築している以上、仮説の域は脱しておらず(基礎的学問の解剖生理も不変ではありません)、日々手探りで一歩ずつ模索し続けている状態である事には変わりありません。では、全てが仮説に満ちた痛み治療に関しては、限り無く安全性を高め、リスクを軽減しながら高い効果を提示し続ける事が求められます。日常的に幾らでも発症し得る可能性のある症状を消す為に、日夜鎮痛剤を飲んでいては身体が持ちませんし、耐性が付く以上、増量が進み依存も生じます。

痛みを抱えた人間の最大欲求は如何なる手段でも痛みを消す事であり、一度でも薬物という手軽な手段で痛みが消えた感覚を覚えてしまうと、それは快楽に繋がり依存へと発展します。その頃には内臓器官に既に痛手を負っている事実を周知する義務のある人間は周知する事もありません。いつまでも薬を飲ませ続けているだけです。これでは痛み治療の発展がないのは当たり前であり、痛みに対して真摯に向き合う事のなかったしっぺ返しが必ず訪れます。そして、治癒のタイミングを逃した多くの患者が、過去の如何なる治療手段に対しても抵抗性を示す難治例に移行してしまったのです。誰かが今を変えなければなりません。それならば私達が変えていくしか手段はありません。
 
誰しもが発症し得る可能性を持つ諸症状が針治療で治るという事は、針治療を通して逆説的な視方をする事で、現行医療の診断定義の矛盾点を拾い集める事が出来ます。針治療というシンプルな治療手段は大きな力を秘めています。既成概念を覆す可能性は幾らでもあり、痛み治療に対して直接的に対峙出来る材料が揃っている針治療は学びが止まない学問でもあり、一生涯掛けてでも取り組むべき課題です。

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イメージ 1 ~針治療から病態定義の見直しを~