藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

【鍼治療は腰痛に対して有効ではあるが、エビデンスは低い】


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                          注:腹臥位で鍼を打つ事は滅多にありません。

http://blogs.yahoo.co.jp/anti_white_supremacy/9346992.htmlでも僅かに述べていますが、
刺鍼抵抗性を鑑みると腹臥位は適した治療姿位とは思えません。理由として
 
・腰部筋群の伸張状態が強制的に形成される為、腰部筋群に持続的に負荷が掛かり続ける
・術者側にとっては殿部筋群の前部線維に対してアプローチし難くなる
・頚部の置き場がなくなる場合が多い
 
等々が挙げられます。
その為に、当院では側臥位や仰臥位がメインで治療を行っています。
「腹臥位でも楽よ」「腹臥位でも寝てられるよ」という患者も勿論います。
但し、患者は遠慮する方々もいる為に、言葉で発せられる内容に対して真偽を問うよりも、
治療姿位を形成した上での筋緊張状態にて真偽を問うたほうが無難かと思われます。
 
更に、治療後のリバウンドを抑止する為にも、腹臥位は些か良い状態とは思えません。
時として鎮静や鎮痛を方針として持たせた場合、リバウンドを作用(効果)として取り入れる場合もありますが、
通常時は適した手段ではなく、腰部に筋骨格系の症状を持たれている方の多くは、
長時間の腹臥位に耐えられる保証は無いと考えています。
 
術者サイドとして視た場合、腹臥位でのメリットは治療時間が短縮されるという点が挙げられますが、
結果と確実性を優先させる場合、側臥位での治療が適しています。
 
外傷を伴っていない腰部に筋骨格系の症状を持つ方々の多くは、
腰部に原因が無い為に、写真の様なアプローチを行う事は滅多にありません。
実際に治療を受けられた方、見た方なら分かると思いますが、腰痛患者に対して、
腰という部分に然程意識した治療を行っていない事が分かると思います。
 
先ほども書いた通り、鎮痛せざるを得ない状況下に於いては施すかもしれませんが、
外傷を伴わない筋骨格系の腰痛患者に対して一番大切な事は、
患者に対しての原因部位の確認と、原因部位の負荷姿勢を回避してもらう為の情報です。
原因部位へアプローチを施し、症状の変化を患者に対して確認してもらう事で、
再受傷防止にも役立つと思います。
 
以前も書きましたが、主に鍼灸院に来られる筋骨格系の症状を持つ方々は、
長年の日常生活から派生し、蓄積された結果、痛みとして自覚されるケースが圧倒的多数を占めています。
何故痛むのかを治療を通して患者に考えてもらい、再受傷防止の情報を伝え、
負荷姿勢を回避し続けてもらいながら、次回の治療に繋げていく必要性があります。

で、何でこんな事を改めて書いたかと言えば、こんな論文があります。
Spine: 15 November 2013 - Volume 38 - Issue 24

Lam, Megan BA, Curry, Philip BSc, et al.
Effectiveness of Acupuncture for Nonspecific Chronic Low Back Pain:
A Systematic Review and Meta-analysis
Literature Review
http://tigergate.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_d48/tigergate/m_fig2-4c030.png?c=a11
Figure 2. Postintervention levels of pain and activity limitation in the acupuncture versus no
treatment group. CI indicates confidence interval; SD, standard deviation.
http://tigergate.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_d48/tigergate/m_fig3-d1e6a.png?c=a12
Figure 3. Postintervention levels of pain (A) and activity limitation (B) in the acupuncture versus
medication groups. CI indicates confidence interval; SD, standard deviation.
(A) Post-intervention and follow-up levels of pain
(B) Post-intervention and follow-up activity limitation. CI indicates confidence interval;
SD, standard deviation.
(A) and activity limitation
(B) in the acupuncture and usual-care group versus usual-care alone groups.
CI indicates confidence interval; SD, standard deviation.
http://tigergate.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_d48/tigergate/m_fig6.png?c=a11
Figure 6. Postintervention and follow-up levels of pain in the electroacupuncture versus
usual-care groups. CI indicates confidence interval; SD, standard deviation.
 
研究デザインはシステマティックレビューと無作為化比較試験(RCT )のメタアナリシス。
調査対象は、25件のメタ分析を含む32件のシステマティックレビュー。
痛みの評価は自己報告(VASまたはNPS)。
統計分析は、レビューマネージャ5(バージョン5.1.7コクラン共同計画2012 )を使用。
 
鍼治療と無治療を比較した場合の、
痛み軽減の平均差(SMD)は-0.72 [95% CI, -0.94 to -0.49], P < 0.000; I2 = 51%)と、ごく僅か。(Figure 2)
NSAID(非ステロイド消炎鎮痛剤)または筋弛緩薬と比較した場合、
SMD = -10.56 [95% CI, -20.34 to -0.78], P = 0.03, I2 = 0%)と、約10ポイントの違い。(Figure 3)

偽鍼と比較した場合のSMDは -16.76 [95% confidence interval, -33.33 to -0.19],
P = 0.05, I2 = 90%)。フォローアップ6~12週では、
平均差は-0.94[95% confidence interval, -1.41 to -0.47], P < 0.00, I2 = 78%)。
(Figure 4) 差は約17、12週後までには差はごく僅か。
(偽鍼とは、経絡および経穴外の部位への最小限の挿入とのこと)

通常のケア+鍼治療と通常のケアを比較した場合は、
SMD = -13.99 ([95% CI, -20.48 to -7.50],
P < 0.000, I2 = 34%)と、約14ポイントの差。(Figure 5) 

電気針とセルフケアまたは通常のケアとを比較した場合のSMD = -1.39( [95% CI, -2.37 to -0.40],
P < 0.000, I2 = 92%)。介入群と対照群では、SMD = -0.66 [95% CI, -1.17 to -0.15], P < 0.01, I2 = 66%)と、
統計的有意差はあるが差はわずか。(Figure 6)

早い話が、【鍼治療は腰痛に対して有効ではあるが、エビデンスは低い】という論文です。
 
治療とは、再現性と確実性、そして、それらを包囲し得る理論で固めた確固たる根拠が必要になってきます。
残念ながら、鍼灸治療は、その点に関して非常に脆弱性のある治療法だと思います。
軟弱な理論且つ、未だ鍼灸治療を神秘的だと相互間で思っている節の方が多いのも事実であり、
更に治療対象を経穴とした場合、幾らでも逃げられる理論を術者が持つ事が出来ます。
 
「腰痛」に限らず全ての症状に関して言える事ですが、
患者の訴える症状は似たり寄ったりだとしても、発症時期も発症部位も異なります。
この事により、刺鍼箇所や刺鍼深度、鍼の選定も異なってきます。
この手の論文が出てくる度に、毎度疑問に思う事があり、
 
・患者の病態が分からない
・刺鍼箇所が分からない
・刺鍼深度が分からない
・選定した鍼が分からない
 
他にも幾点かありますが、上記4点が挙げられていない点です。
勿論、挙げられている論文も存在しますが、
基本的には謎めいた理論を土台としている場合、
評価は内輪で終わり、再現性が乏しい内容も多く見受けられます。
 
且つ、筋骨格系症状に関しては、
発症後に患者自身が生活環境に於いてどのような生活をしていたかで、
場合によっては自然治癒する可能性も充分あるという点です。
極端な例を挙げれば、腰痛を堪えながらも毎日仕事をしている人より、
休養を取りリフレッシュ出来る環境下にいる人では、明らかに結果が異なってきます。
 
余談ですが、私は「いつもココで治療している」と言う訳ではありませんので、
特に当日予約をお断りしなければならないケースもあり、
即座に治療を行えない場合は急場を凌ぐ為に知り合いの病院や治療院を紹介する時もありますが、
それすらも不可能な環境下にいる場合でしたら、
「何もせず放置」していた場合のほうが治りが早かったりするものです。
 
腹が痛いから薬を飲む。熱が出たから薬を飲む。
これらの対処療法の害に関しては以前から取り上げてきましたが、筋骨格系症状の場合に関しても、
患者自身が痛みの成立機序を理解・把握されていれば「寝る」という手段が良い場合もあります。
ワザワザ身支度をして車の座席に座り足を運んで行った先で
腹臥位で腰部をグイグイ揉まれたり、牽引されたり、トムソンでガタンとするよりも安全な場合もあります。
 
参考↓

鍼灸治療という枠で考えた場合に於いても、術者の病態把握が異なれば運鍼は異なります。
根底となる治療理論が現代医学か中医学か日本で発展した狭義の東洋医学かによっても異なります。
そして、鍼灸治療以外の様々な代替療法に関しても、
術者の思考にて治療時のアプローチ内容は大幅に異なってきます。
 
その点に関しては、善悪の話は置いておいて、大規模な治験が行われ作用・副作用の有無問わず、
ある程度確立されたデータのある薬物治療を選択したり、整形外科で注射を受ける理由も分かります。
やはり、その点に関して、鍼灸治療をファーストチョイスされない一つの理由に、先ほども述べた
 
・患者の病態が分からない
・刺鍼箇所が分からない
・刺鍼深度が分からない
・選定した鍼が分からない
 
患者サイドの視点で考えた場合、上記4点が絡んでくる以上、信頼性が極端に低下する一因にもなります。

エビデンスの低さは行き当たりばったりの治療に陥ります。
「あの人は治った」けど、「この人は治らない」という現象が生まれます。
そして、それは治療という意義を持たない手段となってしまいます。
安定性を欠いた治療手段では、患者の安心を奪う結果となります。
 
鍼灸業界も過去からEBMを重んじた治療をと内外問わず励んできましたが、
如何せん未だに表舞台に立てない原因は、上記のような論文が発表される
環境下でしか鍼灸業界が成立していない証拠であるとも捉えられます。
 
但し、鍼灸治療で治癒に導ける症状は数限りなくあります。
如何に早期段階で症状を安定させ、1日でも早く治癒へ持ち上げる為には、
病態把握と治効理論のリンクを常に考察し続け、
治療の意味を、意義を、効果を、急速に拡大させていかなければ、
鍼灸治療は風が吹けば飛んでいってしまう程、ひ弱な治療手段で終わってしまいます。
 
鍼灸治療は薬物治療で症状を抑え込むのと異なり、
患者自身の身体を使って症状を持ち上げていく治療法です。
土台となる患者の状態が悪ければ治癒への階段も昇れない時もあります。停滞する時もあるでしょう。
時として歯痒く感じる時もあるでしょうけど、確実に症状改善を実感してもらう為には、
根拠ある治療理論が基礎としてなければ説得力も乏しくなるでしょう。

そのように捉えた場合、「凝っている筋肉に鍼を刺す」という行為が
どれだけ弱い理論であり、確実性の無い治療手段であるかが分かります。
 
簡単に書けば、
 
・鍼を刺すのは誰でも出来ます(国の免許は必要です)
・凝っている筋肉を触知する事は誰でも出来ます
・何で凝っているかを説明する事も誰でも出来ます
・患者が軽症であれば、適当に刺しても効果が実感出来るほど、鍼灸は強い力を持っている
 
但し、治療に於いては何で凝り続けた身体になってしまったか考えなければ、
当たるも八卦的な治療に陥ってしまい、確実性は極端に低い治療になってしまうでしょう。
もう1点考えれば、その凝りって本当に凝りなの?という疑問もあります。
客観的評価が出来ない治療現場では、凝りの探知一つとっても全ては術者に委ねられる状況です。
常に客観的評価にも耐えうる理論構築をせぬ限り、業界の発展は伴わないものでしょう。
根本的問題を考察した運鍼をせぬ以上、鍼灸治療も薬物治療と同様に対処療法の枠から出られなくなります。
常に他を寄せ付けない治療効果を出し続けなければ治療評価は得られないものです。
 
そのように考えると、確実性が高い学問から身体を診る事で、確実性の高い治療効果は生まれてきます。
 
但し、その学問は鍼灸学で拾えないし、整形外科学でも拾えない学問だと言うのが、
オーバーグラウンド化しない要因でもり、業界が低迷している理由でもあるでしょう。

鍼灸治療の目指す先とは一体何なのでしょうか。
 
先人達が築き上げた理論が正しいか否かを試す事なのでしょうか。
症例集を掻き集め、丸暗記した理屈と現場に来た患者を照らし合わせ、経穴を選定する事なのでしょうか。
違いますよね。患者を治す事を一番に考える治療理論を掘り起こす事が先決なのです。
先人の理論が治らなかったら自分で考えるしかありません。症例集なんて嘘ばかりだと思ったほうが良いです。
整形外科学や鍼灸学の教科書なんて要りません。読んだところで時間の無駄です。嘘と誤認と宣伝ばかり。
 
鍼灸業界は落ちるところまで落ちています。
それは、ここ数年の話ではなく、数十年前からの話かもしれません。
破綻した理論が昔からデカイ面して内輪で罷り通っているだけでは、外部の評価が上がる訳もありません。
まして、保険治療で患者負担が数百円で済む世界でもない為に、
「安いから効かなくてもね」という患者側の妥協は取っ払われた状態でもあります。
効果を出し続けなければならない責任は増し、相互のハードルは急激に高くなってきます。
 
そのような中、鍼灸業界の昨今は如何なものでしょうか。
我々はまだまだ貧弱極まりない状況である事を再認識し、
2014年もスタートを切らなければなりません。
 
鍼灸治療以上に容易に最深部までアプローチが行える治療法は他にはありません。 
我々が追求すべき地は、鍼灸治療でしか出来ない事を突き詰めていく事なのではないでしょうか。

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