藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

リバウンドの病態生理を考察


さてさて、中長期に渡って症状を抱えた患者の治癒過程で生じうる可能性が高い「リバウンド」現象。
リバウンド現象、リバウンド由来の疼痛の消し方って知ってますか?
NSAIDsの静注でスパンと消えます。

そして、何故、中長期に渡って罹患している患者に高頻度でリバウンド現象が起きるのか。
と言う事は、その逆の視点に立って見てみると、リバウンドの病態生理も見えてくるというものです。
患者にとってはどーでもいい忌々しいリバウンド現象も、
病態生理が付いていれば納得出来るのではないでしょうか。そんな話。

今更ですが、「リバウンド」と言う表現が間違えているのかもしれません。
「症状改善期に向けての前駆症状」とかでも良いかもしれません。
「リバウンド」=「悪い現象」のようなイメージが一般認識としてあります。

表現方法は置いといて、実際に治療後~数日に掛けて一時的に筋痛様症状が惹起された後に、
症状が治療前より改善している事を条件とした現象を確実視出来る術者であれば、
事前に説明しておけば問題は起きません。
では、リバウンド現象を惹起し易い患者群を幾つか挙げていきます。

1)暴露期間が長い患者 
2)上下肢問わず神経障害症状を持つ患者 
3)自律神経症状を持つ中高齢患者
4)症状発症が間もなくとも、高齢層の患者 
5)向精神薬で過鎮静状態が形成されている患者
6)向精神薬で減薬及び断薬後、離脱症状を日常的に自覚している患者
7)長期間コルチゾール分泌が多いと推定される患者 
8)糖質及びコレステロール摂取が多いと推定される患者 

が主になってきます。では逆にリバウンド現象が生じる可能性が低い患者群として幾つか挙げますと、

A)栄養摂取状態が健全な若年層の筋骨格系疾患 
B)暴露期間が短い患者
C)突発的に筋骨格系症状を惹起した患者 
D)自律神経症状を持つ若年層患者
E)NSAIDs等の薬物(湿布含む)及びステロイド等の抗炎症作用の薬物を使用している患者

が主に挙げられます。他にもあると思いますが、思い出したら改めて。
リバウンド現象を惹起し易い、若しくは、し難い、患者群の傾向というのはこれでよく分かると思います。
リバウンド現象として挙げられる病態生理は針治療の作用機序を鑑みれば把握がし易いものです。
筋細胞の過剰短縮下に於ける身体環境に対して、
刺傷を起点とした動脈血強制流入による筋細胞の弛緩に伴う、
末梢血管及び末梢神経の解放による刺針箇所、発症箇所、
原因箇所に対しての弛緩作用を求め、
血管拡張下に伴う筋細胞の筋弛緩過程時に於ける容積変化に伴う疼痛が仮説として立てられます。
当該各関節間を走行する筋肉の伸短縮率の補正期と言っても良いかもしれませんし、
当該各関節のアライメントの補正期と言っても良いかもしれません。

結果、各種損傷箇所の低PH解除、炎症拡散による疼痛除去を根源とし、
筋柔軟性保持、筋柔軟性確保、筋柔軟性惹起、筋柔軟性維持、
神経損傷の回復(部位問わず観血的治療が必要でないと判断された程度のneurapraxia)、
神経根付近(厳密には異なる)の炎症拡散による神経症状の改善、
神経根付近(厳密には異なる)の低PH解除による神経症状の改善、
及び各種自律神経症状の安定化、脳血流量増大による、
脳由来推定とされる脳血管障害後後遺症の回復示唆、
中枢神経疾患由来推定とされる回復示唆等々を求めます。

刺傷を起点とした炎症期~回復期までの推定時間というのは大凡72時間内で完了します。
これを一つのラインとして、短縮下にあるか延長下にあるかのデータを集めた結果、
上記の2グループに分けられてきます。見ても分かる通り、1)、2)、3)、4)に関しては、
筋細胞の短縮が強いと示唆されます。5)に関しては次点としたい所ですが、
過鎮静は薬物由来であれど、常時運動量がほぼ無い為に、
弱性の廃用性萎縮が推定されている患者に限定としても良いかもしれません。

6)身体的機能症状が生じている場合に限定(次点として、継続治療で脳血流量増加による離脱(偽陽
性含む)も出る)、7)、8)に関しては、副腎からのステロイド分泌が以前より著しく、長期に渡って7)、
8)を抱えていた場合。更に言えば、超高齢層患者に関しても、傾向はあります。
検査数値上異常の有無問わないは膠原病患者、膠原病様患者もでしょう。
カフェイン過剰摂取群や糖尿病群もですね。他、寒冷暴露下やタバコや色々キリがない。
A)~D)はその逆として見てもらえれば理解は早いと思います。
で、問題はE)ですね。外的に抗炎症作用を持つ薬物を体内に取り入れている場合も
リバウンド現象は軽度で済む傾向は高い。私がデータ取りを始めた一つの理由が、
抗炎症作用の薬物を常時飲んでいる患者群に関しては、
如何なる暴露期間や症状の度合い、症状の種類であれど、
リバウンド現象を殆ど自覚せずに治療が進んでいるという事から調べ始めました。

E)の件に関しては単純な事です。針治療の起点が炎症惹起ですから、
抗炎症作用の薬物を取り込んでいれば相殺傾向となるという事です。
針治療に限定されたものではなく、容積変化を見込む侵害刺激、
機械的損傷を加える治療手段全てに対して言える事です。
理由があって熱を起こしている状況に対して抑制行為が伴えば打ち消されていきます。

もっと身近な話であれば、「風邪を引く⇒熱が出る⇒必要だから熱が出ている」。
それを薬で無理やり抑制し続けると治癒遅延が招かれる事は誰でも知っていると思います。
それと同じです。注意点として、治癒遅延を引き起こす要因とし、
血管の絞扼と圧迫と「収縮作用」行為を取り込んでいる患者です。

各種組織に対して栄養供給を不全状態とする行為を続ける事により、
それが「気休め」であれ「気晴らし」であれ「飲めって言われているから」であれ、
飲んでいる事実、貼っている事実がある以上、
炎症拡大期となる急性憎悪期でも無ければ、逆作用になっていくという理屈が成立します。

どうでもいい話しですが、整形領域でよく見かける「○○炎」という多くの診断名は、
遠からず近からず、と言うか、厳密に言えば疼痛時に微細な炎症は惹起されているのでしょうけど、
炎症が本態でない事は、針治療をしている人間であれば直ぐに気づきます。
その為、診断名から連想される病態、若しくは診断名に基づいた症状説明、
若しくは症状から基づいた診断名と、実際の病態とがマッチングしていないケースは圧倒的に多く、
患者が先行的に取り込んだ概念と、矛盾行為を取り除かない限り、回復は遅れていくのです。

正直、多くの患者は薬を飲んでますが、リバウンド惹起時に抗炎症作用を
取り込むのだけはちょいと勘弁してもらいたかったりするのです。
言ってしまえば飲みながらでも回復はしますが、
飲まなければもっと早く回復するって事もデータで取れています。
その為、前から言っている
「揉んだ後に湿布を貼る、揉んで炎症⇒湿布で消炎」の院が多く存在するのが私には謎なのです。
「強圧で鎮痛⇒湿布で消炎」というケースも。
どちらにせよ、患者の身体をどっちにもっていきたいのでしょうか。
では、日常生活に於けるリバウンド現象の痛みに於いては「放っておいて下さい」でOKです。
リバウンド現象に関しては、簡単に説明すれば弛緩作用が働き続けている補正途中ですから。
人によっては「痛いなぁ」から「心地良い」までそれぞれであり、
治療に対しての積極性が問われる。リバウンド時間の患者の心境というのも、
又一つ重要な聴取事項かもしれません。

幾例か挙げますので、リバウンドを惹起する傾向を掴んでいきましょう。

A)age 50 sex f
3年前、肩に激痛が伴い右上肢挙上不能となる。近場の整形でレントゲン、MRIで異常無し。五十肩と言われ、鎮痛剤と湿布が処方される。1年間の患者自身のリハビリの結果か、90度程度迄外転可となる。その後、鳩尾~右頸部前面へ掛けての痛みと、上腕外側及び内側~前腕外側中部までに痛みが出るようになる。肩関節の可動域も依然変わらず。三角筋中部及び、肩鎖関節周囲に動作時痛、安静時痛、夜間痛あり。内蔵疾患なし。精査済み。

B)age70 sex f
主訴 左右腰背部痛 左右下肢後面痛 左右膝部内側痛 
既往 糖尿 脂質異常 高血圧 難聴 頻尿 下痢 睡眠障害
5~6年前より腰部、膝部夜間痛あり。起床時激痛。日中夜間VAS10⇒7程度まで改善。10m程度の歩行で両臀部後面~大腿後面~下腿後面及び側面に痺れと痛みが出て歩行不能となるも、前屈及び座位姿位を1min保持で改善。仰臥位及び腹臥位にて、右大腿後面~右下腿後面に引き攣れが生じる為、横臥位のみ。x-rayにてL4/5に若干の狭窄があるが、手術する迄もないとA整形で言われる。両膝部に顕著なOAが見られ、僅かな段差も上がれない。膝部内側とは言え、関節部ではなく鵞足部に著名な疼痛。同整形で人工関節の置換術を提案されている。過去、腰部に各種ブロック、膝部にヒアルロン酸ステロイドを受けるも著効せず受診。

C)age18 sex m
主訴 大腿二頭筋短頭第2度筋断裂
2週間程前、サッカーの練習中に相手と上半身を接触。当該部位との直接的な接触はないが、接触直後より大腿後面の痛みに伴い転倒。その後、コールドスプレーで疼痛が緩和された為、練習再開。数日間、強い痛みは伴っていたが歩行は可能だった為に気にしていなかったが、大腿後面の内出血を第三者に指摘され整形外科を受診。第二度筋断裂と診断。その後、テーピングを捲くよう指示を出され、更に数日後、低周波やホットパック等の物療を受けるも、練習再開が出来る程の回復が見えてこず、他に方法はないかと受診。

D)age15 sex m
主訴 右第2趾中足骨脱臼骨折後に生じたモートン病及び後脛骨神経炎を示唆する症状。約6ヶ月前、野球の練習中にスパイクで踏まれ、第2趾中足骨脱臼骨折。ギプス固定。骨癒着確認後、練習再開。若干の外方転移が第2趾中足骨に認められる。数週間後、第2趾、第3趾と下腿内側中部(患者が示す部位は内果から腓腹筋内側頭に掛けて)に痺れ。モートン病及び後脛骨神経炎を示唆するTinel兆候。

E)age 60 sex f
主訴 肩こり
発症時期不明。僧帽筋上部繊維周辺に強い症状を自覚。業務時間の経時変化により、締め付けられるような痛み、及び冷様感が肩背部広範に自覚、両側頭部の頭痛、吐き気、めまい、両前胸部から手指に掛けての痺れ。小休憩時の姿位変化にて僅かに改善。湿布が手放せなかったが、光線過敏症を友人に教えてもらってから、怖くて湿布が貼れなくなり、他に手段はないかと受診。肩関節ROM制限なし。

F)age 30 sex m
主訴 アクセレーション期に痛む右肘痛
既往 右棘上筋腱部分断裂
現役引退後も社会人野球に所属していたが、数年前より投球回数に比例し肘の内側が痛むようになる。医師からは野球肘と言われ、ステロイド注射を数回受ける。他、湿布と鎮痛剤を処方されているが、効果を自覚出来ない為に受診。部分断裂箇所に今は痛みなし。右肩甲上腕関節前方下方転移が認められる。要はルーズ。神経障害、肩関節ROM制限なし。

G)age 60 sex m
主訴 右下腿裏の痛み
3年程前より長期座位姿勢からの歩行開始時より右下腿裏全般が痛むようになる。整形でMRI撮影をした結果、L5/1の椎間板ヘルニア(後方脱出)が認められるものの、異常箇所と発症箇所の整合性が取れないという事で、観血的治療及び保存療法は見送り。様子見となる。

上記のリバウンド惹起傾向群と実際のリバウンドの度合いや日数を照らし合わせて見ますと、
A)B)E)G)>F)>C)>D)になります。(なりました。)
しかし、リバウンドの強さ(痛みの強さ)というのは個々で判断基準が異なるので
評価はし難い部分でもあります。予測が付くようになれば比較的簡単な部分ですが、
基礎疾患や基礎疾患に対しての薬物投与状況、
種々の嗜好品の取り込み状況等など孕んできますので、
全ての患者に知っておいてもらったほうが確実でしょう。

上記症例は比較的単純例ですが、一般的には暴露期間が長い神経症状を有する患者が、
強くリバウンドを出す傾向ではあります。具体例を挙げれば、厄介になってくるあるある症例として、
腰椎下位の髄核摘出後(要はヘルニア術後)に生じる椎体間の不安定性から惹起された
術後後遺障害とかです。病院は認めねーわ、検査しても異常は出ねーわ、
患者は痛いわで、症状が安静化するまで結構大変です。
故、他高位に異常が認められ、2回も3回も摘出した後、
最後は固定術という例も、全て患者責任ではないはず。

という訳で長々書きましたが、
初期数回時の治療でリバウンドは軽減していくのが
一般的傾向ではあります。
その後、症状も軽度期に移行すれば、
リバウンドを自覚する事なく、
治療直後~翌日~翌々日と症状改善自覚が得られ、
日増しに伸びていく段階に入ります。


【電話】 0173-74-9045 又は 050-1088-2488
                             (携帯 090-3983-1921 Cメール可)
【診療時間】 7:00~21:00 時間外対応可
【休診日】 なし 土・日・祝祭日も診療しています
【PCメール 
fujiwaranohari@tbz.t-com.ne.jp お返事には数日要する場合も御座います

  ~針治療から病態定義の見直しを~